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裏返しのニット帽とTCK

 

 昨夜、北田暁大「広告の誕生」を読んでいたらいつのまにか4時になってしまった。

三時間寝てNHKラジオのオープニングテーマでいつも通り目覚める。

物凄い雨で外に出る気を失いかけたが、基礎演習のTAもどきをやらねばならないので用意して出発。

久し振りに電車で学校に向かう。車内でニット帽を裏返しに被っているお姉さんを発見。

わざとなのだろうか。「ポリエステル80%」「レーヨン20%」、ニット帽の材質が公に曝されているのだが・・・。

 

 とりあえず今日の基礎演習は面白かった。TCK (Third Culture Kids)についてのプレゼンを聞いたが、とても興味深いものだった。

『越境の声』という越境文学の対談集を最近読んだばかりだったこともあり、リービ英雄や水村美苗など、

越境文学の担い手たちが頭に浮かんだ。(リービ英雄の「星条旗の聞こえない部屋」は東大の現代文でも出題されたことがある)

越境文学の担い手たちの一つの核心は、「母国語でない言語で小説を書く」ことにあると思う。つまり「その言語への違和感」が

作品を書く動機の違和感になっていると言える。文学とTCKの関係について発表者の女性はちらっと触れたが、

TCKというよりは「越境」をキーにして調べていけば面白い研究が沢山見つかるのではないだろうか。とはいえ、

質疑応答でも述べられたように、TCKという区分は「誰にとってTCKなのか」という認識の問題を含んでいるため、定義が難しい。

昨年の基礎演習でも経験した「用語を定義することの難しさ」を再び味わっている。

 

 基礎演習後、アフター基礎演習のために初年次教育センター(通称:水族館あるいは動物園)へ。

今日のテーマはPowerPointの使い方の実習である。ちょこちょこ一年生にアドバイスしながら、スクリーンを自由に使っていいとの

ことだったのでMotion Dive Tokyoを使って「Power Pointの使い方」という動画をその場で作って映してみた。

それなりにウケたようなのでちょっと満足。Motion Dive は使い方次第で最強のプレゼンソフトになると思う。

昼、機構へ向かう。かっぱがまたもやお茶を淹れてくれる。昨日より味に厚みが出て、さらに美味しくなった。

口に含むと柔らかい苦さを感じ、喉を通るころにはふんわりとした甘さに変化する。かっぱやるなあ。

 

 四限の歴史はマルク・ブロックについての授業だが、ほとんど誰も聞いていない。

マルク・ブロックを自分で読んだり、仏語の勉強の時間に充てている。しかし、今日は一点とても面白い所があった。

ブロックの著書に「王の奇跡」というのがある。大体の骨子を以下に書いてみると、

「王の奇跡」とは、「王に触れてもらうと病気や怪我が治癒する」という俗信の事を指す。

中世において王の権威は不動のものと言う程ではなかったが、この「奇跡」のように呪術的権威は王のみが保持する権威であった。

王は「奇跡」という呪術的権威に依拠することで、人間的な観点ではなく神的な観点からその権威を強化していったのである。

奇跡を行う事が出来る、というのは、「他の一切の権力に優越するだけでなく、全く別個の次元に属する権力」の表れに他ならない。

  

というような感じである。重要なのは、この本を書くに至ったブロックの問題意識だ。彼の問題意識とは、

「王に触ってもらえば病気が治る、などという一見取るに足りない慣習が何故民衆に浸透していったか。」というものだ。

レジスタンスとして最後まで抵抗活動を続けた(最後はドイツ軍に捕まり銃殺刑に終わる)彼のアクチュアリティから考えたとき、

その問題意識は、

「どうしてナチスのような全体主義、一種の〈信仰〉に、民衆が惹きつけられていったか。」というところから来たものだと考えられる。

ブロックはその問題意識を、直接にナチスの全体主義を論考するのではなく、「中世に時代をずらす」ことで明らかにしようとした。

その結実がこの「王の奇跡」なのである。

 

 五限は金森先生のゼミ。今日はハンナ・アレントについて。これに関してはまた記事を改めて書くことにしよう。

なかなか密度の濃い一日だった。

  

 

2 comments to 裏返しのニット帽とTCK

  • 通りすがりの文学部生

    勉強されていますね。ちょっと吃驚しました。
    ただ一言『王の奇跡』の刊行年は1924年ですから、当時のブロックの問題意識をナチスに直接結びつけるのは問題があると思われます。人類学や社会学との関係を考える必要はあるかなと。
    二宮宏之『マルク・ブロックを読む』(岩波書店)はお薦めです。

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