May 2009
M T W T F S S
    Jun »
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

『病魔という悪の物語』(金森修 ちくまプリマー新書,2006)

  
 実在したチフスキャリア(健康な保菌者)であるメアリーを巡る話。
メアリーが隔離されたのは、彼女がチフスキャリアであったからだけではなく、社会的な背景があった事を説く。
ここにフーコーの議論を重ねたとき、すぐさま生権力論が想起される。
「正常」という状態を作り上げ、個人を「正常」な方向へ生かし、時に「正常でない」個人を排除する力学。
bio-politiqueあるいはbio-pouvoirを説明するための導入には最適な一冊であろう。
著者がゼミの教科書に指定したのも頷ける。

  
 僕は今、この本の筆者である金森先生のゼミに参加している。このゼミ(というより授業に近いが)は本当に良い。
今まで受けた授業の中で最も知的興奮を覚える。ニ時間あまりノンストップで手を動かしたくなる
(「動かさねばならない」、ではない。「動かしたくなる」のだ。)授業は、現実問題として大学においては珍しいだろう。
それは扱う内容が個人的に関心のあるフーコーやアガンベンといった思想家の思想にまつわるからだけではなく、
金森先生の語りが絶妙であるからだ。知識がとめどなく溢れ出す。しかもきちんと論理立っている。

 前回のゼミでは、フーコーの生権力論が応用された例としてナチスにまつわる問題を扱った。
書き始めると凄い量になってしまうから詳しくは別の機会に譲るとして、一つだけ前回の授業で学んだ事を書くにとどめる。
 

 なぜ、ナチスはあれほどまでのユダヤ人を殺し得たか。それには、虐殺の手法の変化を直視する事が必要である。

 
【当初】
突撃隊EinsatzGlupenにユダヤ人を集めさせ、森の方に連れて行き、先に掘っておいた穴の前に座らせて後頭部を打ちぬく。
そして穴に落とす。この方法で一日300人あまりのユダヤ人を虐殺した。しかし、これはまだ原始的な手法である。

 
【ポーランド侵攻期】
T4(ティーアガルテン四番地)作戦あるいは動物園作戦と呼ばれる手法が取られた。
ポーランドの重度の精神障害者を集めてきて収容する。夜中に患者の就寝している病室に一酸化炭素ガスを充満させて殺す。

ここで「安楽死」という概念が生まれる。つまり、重度の精神障害者は「生きるに値しない命」だと考えられ、生きるに値しない命は
「人道的理由から」奪ってもよいものと考えられた。これがいわゆる「Mercy Killing/Gradentod 慈悲的な殺し」の思想的基盤となる。
 
(1895  Adolf Jost “Das Recht auf den Tod” 「治療し得ない精神障害者は国家によって殺しうる」)
(2001 Adolf Hoche, “Die Freigabe der vernichtung lebensunwerten Lebens”  
直訳では、「生きるに値しない命を殺すということについての解除」。邦訳は「生きるに値しない命とは誰のことか」2001年)

 
ここに至って、ナチスは原始的な手法で殺していた初期と異なり大量殺害のノウハウを獲得するに至る。

 
【ユダヤ人へのT4作戦転用】
T4作戦で用いた手法、すなわち毒ガスを用いた大量殺害の手法をユダヤ人に転用する。
この手法では、「人が人を目の前で撃つ=その手で殺す」という作業が必要ではなくなる。集めて、部屋の外からスイッチを押す。
これは極めて合理的、系統的に殺しを行う手法である。ここに、銃で命を奪っていた頃とは決定的に異なる状況が生まれる。
すなわち、人を「平常心に限りなく近い状態」で殺すことが出来るようになった。極限状態になることなく、平常心に近い状態で殺しを行う。
いわば「事務的」に殺しを行う事が可能になったからこそ、ナチスはあれほどまでのユダヤ人を殺し得たのである。
(これがナチスの行った事で一番許し難い事である、と金森先生はおっしゃった。平常心で殺す状況が生まれたことから、ナチスの中には
「死体から金歯を抜きとる」という行為までが起こる。これが如何に酷い行いであるか。人を人とは見ていない!)
 
 
 他には
「ナチスに医者があれほどまでに協力したのは何故か。」
「ナチスの健康論とは何か。(決してナチスの時期は知的停滞期ではなかった。)
「ナチスの〈血〉と〈水〉に根ざした大地の思想と肉食への敵意の関連はどこにあるか」
「人種衛生学Rassenhygieneとは何なのか」などを学んだ。
近日中に理解したところを纏めてみたい。昨年より精読を続けている佐々木中 『夜戦と永遠』(以文社、2008)と合わせて、
フーコーに関する知識と理解をニ年の間に小論として組み立てる事が出来れば、と考えている。

 

益川敏英教授 講演会@駒場のお知らせ

 

知っている人は知っているかもしれないが、5月の9日の土曜日、午後二時から東大駒場キャンパス900番教室で

ノーベル物理学賞を受賞された益川教授の講演会が行われる。受付は12:30から900番教室前で。

先日の雁屋哲さんの講演会に続く「新入生歓迎講演会」の第二回としての位置づけである。

これらの企画で、僕は看板やら整理券やらを作る仕事を担当させてもらっている。

その関係で内部情報を色々知っているので、バラしても問題無さそうな事をここに書いておく。

①学生は650人ぐらいまで900番講堂に入ることが出来る。650人を超えた場合、別室で中継映像を見ることになる。

②整理券が12:30から配られる。おそらく席順は整理券の番号と対応する。つまり早い者勝ち。

③整理券を貰ってしまえばあとは2:00まで自由にしていられる。

 

きっと面白い話を聴かせて頂ける事だと思う。立花隆『小林‐益川理論の証明』には、益川先生が何を為されたかが

実に手際よく解説されているので、これを読んでおくと話が理解しやすくなるのではないだろうか。