さて、益川先生の講演会の内容について書くことにしよう。
最初に益川先生の為されたこと、および素粒子論の簡単な説明を東大の教官にしていただいたあと、
益川先生にお話をお願いするという運びであった。壇上にゆっくりと上がられた益川先生を見て、その舞台さばきに感動した。
沈黙、そしてゆっくり話し出す。まず、講演会を開催した関係者各位にお礼を述べられ、そして実際に頭を下げられた。
話の最初に関係者にお礼を言う人はたくさんいても、実際に頭を下げて静かにお礼をされる方を僕は初めて見た。
先生がこの講演で伝えられたことのうち、印象的だったことをいくつか挙げておく。
1. 21世紀中、それも前半に、ダイナミックなパラダイムチェンジがもう一度起こるのではないか。
それは量子重力に関する新しい理論の登場によるものであろう。
2. 若い人は間違いを犯す勇気、大胆な説を唱える勇気を持っている。年を取ると安全に走ってしまう。
新しい理論を大胆に唱えるような研究者は、みな20代から30代の若手の研究者である。
「秀才の極限としての天才」であるハイゼンベルクも、「誰も認めないような仮説から誰も認めないような理論に達する天才」
であるランダウも、「包括的に物事を見て定式化する天才」たるディラックも、みな20代から30代までに大きな仕事をしている。
その意味では、大学生にはあと10年ちょっとしか残されていない。
3. 分からないから気になる。これが全てのスタート。研究は一番最初の着想が大事であるが、それを「続けるか/諦めるか」
の見極めが難しい。早々と「まずいぞ。」と考えて転身してしまっては、大魚を取り逃すことになる。
その判断に際しては、共同研究者とのDiscussionが大事である。迷いやズレを正しい道に戻すのは共同研究者だと思う。
4. 先生や先輩に教えを乞うのは良いことだが、それでは最小限の知、無難な正解を得るのみだ。
真に大切なのは、「同じぐらいの知、異なる志向を持つ友人と、一つの問題について夜を徹して話し合うこと」である。
当初の問題から脱線しても全く構わない。自分とは違う道を歩くはずの友達と、一つの問題を巡って話し合うことで
より広い視野を持つことが出来る。友達の経験を自身に取り込み、自分の経験を1.5倍ぐらいに拡張し得る。
講演会後、レセプションにも参加して、御飯を食べたりお酒を呑んだりしてきた。
赤ワインが結構美味しくてついつい4杯ぐらい飲んだ気がするが、周りも結構呑んでいたのでまあいいだろう。
想像していたより気楽な雰囲気だったので、関西人仲間と一緒になって益川先生に京都トークを振ってみたり、
果ては学部生を代表して益川先生及び居並ぶ駒場の先生方の前でスピーチをしてみたり、貴重な経験をさせていただいた。
ちなみに学部生代表スピーチ(というほどのものではないけれど)は、M君と僕とS君の三人でやったのだが、三人とも全員関西人で
あったことを付け加えておく。こういうときのアドリブ性の高さは関西人の強みかもしれない。単なる「無謀」とも言えるだろうが、
講演会で、「若い人は大胆に走る勇気を持っている」と先生がおっしゃっていたので良いことにしよう。
最後に写真を沢山撮って頂いて解散。 写真に映った益川先生は、とても穏やかな笑顔をされていた。