糸井重里『経験を盗め 文化を楽しむ編』(中公文庫、2007)を読了。
随分前に買って最後のほうだけ読み忘れていたので、ドイツ語の時間に暇を見つけて読んでしまった。
日本を代表するコピーライターの糸井重里が、各分野の達人たちとその分野を巡って繰り広げた議論の様子が収録されている。
さすが「欲しいものが欲しいわ」のコピーを生み出した糸井だけあって、「経験を盗め」というタイトルも刺激的。思わず買ってしまう。
この本の中で触れられているテーマは、グルメ・墓・外国・骨董・祭・作曲と詞・日記・花火・ラジオ・トイレ・豆腐・落語・水族館・喋り
などである。一見して分かるようにかなり広範囲にわたるテーマを扱っており、糸井との対談に登場する方々も多様である。
同じくコピーライターの仲畑貴志が骨董を語るかと思うと、東大先端研の教授である御厨貴が話術について語ったりする。
(まったくどうでもいいのだが、この両者を取り上げたのは「たかし」が共通しているからである。そういえば立花さんも・・・。)
全体を通じて軽妙な書き起こしで、大変読み易い。
印象に残った部分は「グルメ」についてを扱う章で里見真三が述べた言葉。
「これは私の持論ですが、上半身であれ下半身であれ、粘膜の快楽を過度に追求する者はヘンタイと呼んで然るべきです。」
次に、「花火」についてを扱う章で冴木一馬が述べる
「日本の花火は三河地帯が発祥とされています。中国人が作った花火を最初に見たのが徳川家康で、一緒にいた砲術隊が家康の
生誕地である三河に技術を持ち帰って伝えた、と。当時、火薬は砲術隊、鉄砲屋しか扱えなかった。ところが徳川政権が安定してくると
戦争がないから鉄砲が売れない。それで鉄砲屋が花火屋に移行していったようです。」
という言葉。
そして「豆腐」についてを扱う章で吉田よし子が述べる
「ちなみに穀類プラスその二割の量の豆を食べるだけで、全必須アミノ酸をバランスよく摂ることができるんですよ。
人類は、穀類と豆の組み合わせで生き延びてきたと言ってもいい。」
などだろう。「落語」を扱う章には先日行ってきた新宿の末広亭の名前が挙がっており、何となく嬉しくなった。
あと、御厨さんが登場する章では、御厨さんの様子を御厨ゼミに所属しているS君から時々聞いているので、
それと重ね合わせて読むと妙に面白く思えてしまった。 (読後すぐにS君に本書を紹介した。)
さらっと読める割に、内容がしっかりある良い本だと思います。