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『快楽の動詞』(山田詠美 文春文庫,1993)

 

 山田詠美『快楽の動詞』(文春文庫、1993)を読了。

何とも軽妙なエッセイ集。エッセイと小説の間、ある種の批評といった方が的確かもしれない。

作品の中に入り込む「書き手」としての視点と、作品を読む「読み手」としての視点を

山田詠美が自由自在に行き来する妙技が味わえる。やはりこの人は文章が上手い。

さらっと読める割には、随所に鋭い指摘があって読んでいて頷かされることも多々あった。

「単純な駄洒落は、〈おもしろいでしょ〉というそれを認めた笑いを求める。

しかし、高品位な駄洒落は正反対に、〈おもしろくないでしょう〉という笑いを求めるのである。

前者の笑いは、わはははは、であるが、後者の笑いは、とほほほほ、である。」

 

 うーむ・・・なるほど。

KENZO POWER インプレッション

 

 香水、とくにボトルのデザインを見るのが好きで、香りとボトルの両方を気に入ったものは出来る限り買うようにしている。

香りという「目に見えないもの」を「見る事も手で触ることも出来るもの」としての容器、密封されたボトルに閉じ込める。

香りを組み立て作り出すという芸術、それから香りのイメージをボトルで表現するという芸術、その二つの芸術が合わさることによって

一つの香水が生まれる。まさに、調香師とボトルデザイナーという二人の芸術家による自己表現と他者理解の結晶ではないだろうか。

言葉をデザインにしたり、デザインを音楽にしたり、音楽を絵画にしたり・・・

そんなふうに形態をメタモルフォーゼンさせて生まれる芸術は、僕にとっていつも大変魅力的に映る。

 

  さて、先日注文していた香水が届いたので、それについて書くことにしよう。

ケンゾーのパワーと、シャネルのアリュールオム エディシオンブランシェの二つである。

Powerの調香師はオリヴィエ・ポルジュ、ボトルデザインは原研哉。(原研哉の著書『白』は、今年の東大の現代文で出題された。)

Edition Blancheの調香師はジャック・ポルジュ、ボトルデザインは故ジャック・エリュの作ったものを継承。

二つ見比べて「ポルジュ」が共通していることに気付いた人がいるかもしれない。

実はこの二人は親子である!(親がジャック、子がオリヴィエ。ちなみにジャック・ポルジュはシャネルの専属調香師。)

親子の作品を同時に買って比べてみる事で、何か面白いものが見えてくるかも、と考えてこのような組み合わせで購入した。

 

 まずはPowerから。作り手の側のインタビューやコンセプトは香水名をGoogleに打ち込めばすぐに出るから、

ここに書く事はしない。それよりも自分のインプレッションを書くことにする。

この香水からまず最初に感じるのは、花と木の香りである。柔らかくて密度のある、温かい香り。

何の花なのかは分からない。靄がかかった森の中のような、よく見えないけれど周りに確かな木や花の存在を感じる光景。

徐々にベルガモットらしき香りが前に出てくる。靄の中に朝日が差し込んだような感じだ。

しばらくすると、「何か分からないが、明らかに花」な香りが場を支配するようになる。名前の分からない花、しかしどこかデジャヴ。

夢の中で流れていた香りを、朝目覚めてから思い出そうとした時のようだ。

むせるような花の匂いではなく、何重にも薄いフィルターがかかったような花の香りは、しばらくすると徐々に

フェードアウトしていく。フィルターが外されていくのではなく、透明度を30パーセントぐらいまで下げていくイメージ。

そのうちに、柔らかい木の香りが次第に強く感じられてくる。心地よい温かさと、重すぎない重さと甘さがある。

とても安心感を抱かせてくれるラストノートだ。しかしそれゆえに、ミドルノートの抽象的なイメージが頭に残る。

「あれは何の花だったのだろう?」と気になってしまう。ミドルとラストで繋ぎ目は全く見せないのに、コントラストが効いている。

最後に残るものは安心感なのに、とても独創的。これは本当に凄い香りだ。

 

 その香りを包むボトルも斬新なものである。本来は日本酒のためにデザインされたボトルをここで使っている!

KENZO POWER

鏡面仕上げからは軽さと重量感の双方を感じるし、それだけではなく、

自分の顔や手が円柱状の鏡に映って歪んで抽象的になる様子がとても不思議。

下部に控え目に配されたロゴが素晴らしい。ここに紫色を使ってくるのが天才だ。

ここが黒なら物足りないものになってしまっていただろう。

紫色の字に加えて、原が描いた「架空の花」のイラストが印象的にボトル全体の

見かけを締めている。何度見ても感動してしまう、素晴らしいバランス。

ここに詳しくは書かないが、このボトルを包む箱にも凄まじい拘りがある。

同じく原の作品である「冬季長野オリンピック パンフレット」を思わせるシンプルな

デザインに、たくさんの遊び心が詰まっている。