February 2010
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「音を慈しむ」ということ。

 

ピアノをデザインに用いると、大抵は黒鍵と白鍵という「鍵盤部分」を使うことが多い。

だが、ピアノの一番美しい瞬間は鍵盤そのものではなくて、鍵盤を駆け巡る指先がピアノ・ブラックのボディに映っている様子だと思う。

白鍵と黒鍵、そしてその上を自在に駆け 巡る白く細い指。それが磨き抜かれた黒に映っている。

残響を慈しむようにピアニストが顔を上げると、立ちあげた蓋に自分が映る。ハンマーで叩かれて震えた弦から生まれた音は蓋に反射し、

四方へ散らばっていく。だが、蓋に映った映像は、いつまでもそこにある…。

 

いつかこんな情景をデザインに出来たら、と思うのだが、僕のテクニックではいまだ十分に表現することが出来ない。

作っては壊し作っては壊しを繰り返すうちに、思い描くものに近付いて行くのだろうか。今度のコンサートのポスターのお仕事でも

とりあえず試作してみたいと思う。

 

さきほど、 「音を慈しむ」と書いた。

僕はこの、「音を慈しむ」という表現がとても好きだ。いつくしむ。とても綺麗な日本語だと思う。

空間に確かに存在するが決して見えない「音」。演奏者は全身全霊でそれを生み出し、聞き、膨らませる。

けれども音はいつだってゼロへと向かう。世界に現れた瞬間から消え始める。

だからこそ、生みだした音を精一杯愛し、暗闇へ溶けてゆく瞬間を温かく看取る。音を慈しむとは、きっとそういうことだ。