ついに完読!!
素晴らしい小説だった。今日は一日家に籠っていようと思い、午後三時に本書の中巻を開いて読み始めてから、飲まず食わずで
夜の十一時までかけて中巻・下巻合わせて1300ページ以上をノンストップで読み切った。
中巻の一ページ目を開いてから下巻の最後の一行を読み切るまで、休憩したいとも休憩しようとも思わなかった。
中巻はまずもって「権威」との戦いが描かれている。権威を持たない者たちがあの手この手で権威や保守的構造・慣習に
立ち向かおうとする。一度は上手くいくように見えるものの、最終的には地域レベルを超えたより上位の権力の前に屈服させられる。
その様子は、読んでいてイライラするほどだ。これらと同時に、すれ違うばかりで上手く交差しない恋愛や、中世ならではの「ナンセンス」
な恋愛構造が描かれもする。そして最も大切なことは、ペストという大悪疫(La moria grande)と、百年戦争という戦い。
中世世界を揺るがせるこの二つの事件が、人々に次々と死を与えていく。中盤あたりで独白的に述べられる、これらを目の当たりにした
カリスの言葉からも見えるように、中巻は全体としていわば「不条理」が描かれている巻だと言えるだろう。
対照的に下巻は解決の書だ。
上巻からずっと時間が経ってあの頃の指導者たちはほとんどが故人となり、子供だった登場人物たちがこの世界を動かしてゆく世代に
なっている。彼らは時代に翻弄され、抵抗し、罰せられ、そして立ちあがる。
とりわけ、メインキャラクターとして描かれるカリスの不屈の精神力(そして同時に、時折見せる人間らしい弱さ。)は読む者の心を打つ。
以下に、「絶対に許さない」と夜明けの大聖堂の屋根の上で力強く言い切るカリスの台詞を引用しよう。
カリスはさっと腕を広げ、町とその向こうの世界を示した。
「何もかもよ。身体がどうにかなるまで喧嘩している酔っぱらいとか、わたしの施療所の入口に病気の子供を捨てていく親とか、
ホワイト・ホースの外のテーブルの上で酔った女と性交するために行列をつくっている男たちとか、遊牧地で死んでいく家畜とか、
半裸で自分を鞭打ち、見物人から小銭を集める悔俊者もどきとか。それに、わたしの修道院で若い母親が残忍に殺されたわ。
ペストで死ぬのなら、運命と諦められるかもしれない。でも、生きているかぎりは、この世界が壊れていくのを黙って見ているわけには
いかないわ。」 (同書下巻 P.268)
偶然に揉まれ、必然に流され、時代の中で登場人物たちは時に交錯しながら必死に生きる。
それぞれがそれぞれの問題を抱え、読者である我々に問いかける。死や生といった抽象的な問題だけではない。もっと具体的な問題、
例えばカリスとマーティンの辿った人生を考えたとき、「結婚」とはいったい何なのだろうかと考えずにはいられない。
他にも多くのテーマが横たわっているがそれは読んでもらえば届くことなので、これ以上多くは語らないことにしよう。
総計、約2000ページ。
原題である ” WORLD WITHOUT END ” が示すように、時間的にも空間的にも 途方もないスケールと深さを持つ作品だった。
塔の天頂から果てしなく続く世界を視界に広げ、吹いてくる風に身を委ねるような、ただただ心地よい読後感が残っている。