September 2009
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『ベティ・ブルー インテグラル』(1986,Jean-Jacques Beineix)

 

 うーむ。

とんでもない映画を見てしまった気分になった。

日本では『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』として公開された作品の完全版がこの『インテグラル』で、原題は37°2 le matin という。

これは「朝、37.2度」と訳されるもので、女性が妊娠する確率が最も高い体温のことを指すそうだ。

このことだけからも分かるように、本映画はとにかく激しい。冒頭からいきなりびっくりさせられる。

この映画は見る人の性別によってまったく評価が変わってくると思うが、男の僕からすると、最後までベティの激しさに困惑し、

振りまわされ続け、ときに「もう手に負えんなこれは。」とイライラしつつもどこかで惹かれ続け、悲劇的な結末に言葉を失った。

印象的なセリフも場面も沢山あるが、あらすじに関する部分を書いてしまうと一気につまらなくなるから、それは実際に見てもらう

(特に女性の方はこの映画にどんな感想を持つのか聞いてみたい。)ことにして、ここでは映像の美しさを語るに留めようと思う。

 

 この映画、とにかく「青」が美しい。

とりわけ朝、夜と朝の境界の時間だけに差し込む光の青だ。

この青は白いものを神秘的に染める。擦りガラスの白、テーブルクロスの白、猫の毛の白、女の肌の白・・・これらが青に染められる

様子をこの作品は見事に捉えている。そして、この青が届く場所と届かない場所を分けて明確に対比させている。

ラスト直前のあのシーン、ベティを包むシーツには青の光が届かない。建物の壁は青く塗られているが透明な青ではなく、俗悪だ。

対してゾルゲの後ろにある窓から差し込む光の青はこの青、ベティ・ブルーとも言うべき青である。

そしてラストシーン、ゾルゲが机に向かい小説を書く姿の後には、瓶に入った水がぞっとするほど美しい青に照らされてそこにある。

炎のように燃えるベティの激情や血が全編を貫きながらも、観終わった後にある種の静謐さを感じるのはこの青のせいだろうか。

 

 夜明けと朝の境界の青。

神秘的なこの色に包まれて、身を破滅させるほどに激しく鮮烈な物語が夢のように消えていく。

朝四時、ちょうどベティ・ブルーがあふれる時間がやってきた。カーテンを開けよう。