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『理性の限界 不可能性・不確定性・不完全性』(高橋昌一郎,講談社現代新書 2008) &カオス呑み

 

 駒場の生協で著者の名前が目に入り、即座に購入。

著者は講談社現代新書で10年近く前に『ゲーデルの哲学』を書いており、これを高校時代に読んでハマった覚えがあったからだ。

JR大阪駅を出てすぐ、ヤンマーディーゼルの看板が窓から見える辺りで読み終えたということまで覚えている。それほど印象的だった。

 

 今回の『理性の限界』もまた、読み終えた瞬間を覚えていられるほど刺激的な内容。

最初から最後まで「シンポジウムにおける対話」という形式を取っているので、内容は決して簡単ではないものの、楽しんで読める。

テーマは大きく分けて「選択の限界」「科学の限界」「知識の限界」の三つであり、それぞれに関連する主要な理論が

仮想シンポジウム参加者の対話によって説明されてゆく。

「数理経済学者」がコンドルセのパラドックスを説明したかと思うと、「情報経済学者」がアクセルロッドのTFT戦略について

説明してくれるし、それに絡める形で再び「数理経済学者」がミニマックス理論やナッシュ均衡に話を広げていく。

「科学主義者」はラプラスの悪魔や相対性理論を噛み砕いて説明するし、「相補主義者」は二重スリット実験を紹介してくれる。

(二重スリット実験は何度読んでも感動する。この現象を目の当たりにした科学者は最初どれほど驚いただろう。)

お約束とも言えるクーンのパラダイム論については「科学社会主義者」なる人が概略を語ってくれる。

それに対して「方法論的虚無主義者」なる人がファイヤアーベントの哲学を持ち出して来て、Anything Goes ! という極端な

科学哲学を紹介してくれたりもする。(このファイヤアーベントの哲学は本当に面白いと思う。これから読んでみたい。)

 

 ところどころ登場人物に不自然なところがある(「ロマン主義者」とか「フランス国粋主義者」とか)が、それもまたこの本の面白さ。

著者は、幅広い参加者たちに託して対話の中に様々な知識(たとえば、フランスの「コアビタシオン」と呼ばれる政策についての

説明や、マーヴィン・ミンスキーの「心社会論」についての説明など)を練り込んでくれている。その一方で、「カント主義者」が

「要するにだね、カントによればだね、君の意志の格律がいつでも同時に・・・」と言いかけては「司会者」に

「はいはい、今はカントの話ではないのでまた後日にお願いしますね。」と流されているのがちょっと哀れで笑えたりもして、

最初から最後まで読んでいて飽きない。後半で紹介される「ぬきうちテストのパラドックス」なんかには「むむむ・・・。」と

悩まされること請け合いである。悩みながら楽しみながら、『ゲーデルの哲学』同様に買ってすぐに一気に読み通してしまった。

数ある新書の中でも非常に充実感の高い一冊。おすすめです。

 

(参考:【抜き打ちテストのパラドックス】

1.月曜日から金曜日まで、いずれかの日にテストを行う。

2.どの日にテストを行うかどうかは、当日にならなければ分からない。

という講義要項があったとする。これを見たA氏は「テストは実施されえない」と判断した。というのは、この講義要項1に基づけば、

まず木曜日の時点でテストが行われなかった時点で「テストは金曜日だ」と予想されるが、予想された時点で講義要項2に反するので

金曜日にはテストは行われえない。これより、金曜日にテストが無いならば、木曜日にテストを行う場合、先ほどと同様にして水曜日

まででテストが行われなかった場合「テストは木曜日だ」と予想され、これは講義要項2に反するので木曜日にテストは行われえない。

これを繰り返していくと、月曜日から金曜日までで「抜き打ち」テストを行うことはできない。よって抜き打ちテストは無い。

このようにAは判断したのである。しかし、実際には金曜日にテストが実施された。

「おかしい!上の理由により、テストは行われないはずだ!」とAが主張すると、教授は笑いながら

「でも、君はテストが今日行われないと思っていたんだろう?それならば、抜き打ちテストは成立しているじゃないか!」と返した。)

 

 なお、これを読んだあとにクラスの友達数人で高尾山のビアガーデンにて「カオス呑み」をしてきた。

「カオス呑み」とは名前の通り、秩序に縛られず酒を楽しむ会のこと。簡単に言うと呑みまくっているだけである。

いつもは下北沢などで開催され、最終的には結構カオスな事になるのだが、今回は高尾山ということもあって

非常に穏やかな展開になった。今回はみんな『理性の限界』を破らずお酒と高尾山から見る夜景を楽しんでいたようだ。