オール・ベートーヴェンで組まれたこのリサイタル、Haydnのコンチェルトのソリストでクラスの友達のNさんからチケットを頂いたので
わくわくしながら上野にある東京文化会館へと向かった。植田さんのコンサートを聴くのは昨年の演奏会に続いて二回目。プログラムは
演奏順に Piano Sonata No.3 , 13 , 18 , 27であり、No.14が『月光』、No.17が『テンペスト』、No.26が『告別』であることを考えると、
有名どころのソナタをあえて外して構成されたプログラムのように思われた。No.3 , No.13はそれまでにほとんど聞いた事が無かった
ため、はじめて聞く曲のつもりで聞く。対してNo.18 , No.27は自分でも弾いた事がある曲で、とりわけNo.18は好きなソナタの一つ
(Rubinsteinのピアノ、Barenboimの指揮による『皇帝』にカップリングされているNo.18を数年前から愛聴していた。)であったため
この軽快な曲がどのように弾かれるのか楽しみにして、ホールのライトが落ちるのを待った。
あっという間に全て聴き終わる。No.27も良かったが、No.18がとりわけ素晴らしい演奏。
この曲はしばしば指摘されるように、出だしが二度の七の和音(Ⅱ7)という型破りの音で始まる。
これをどんな音色で弾くか、そしてその後の激しいテンポ変化をどう表現するかで全体の性格がある程度決まると思う。
植田さんは出だしの音にじゅうぶんな時間をかけ、その響きを我々の耳に焼き付けた。リタルダンド、フェルマータに差し掛かっては
聴衆に息を止める時間を与え、そして走り出す。多くない音がかえって美しい。ガラス玉を光に透かしたような輝きの高音、
重さのある低音、二楽章での左手の同音連打の強調が心地よい。そうかと思うと音量の鮮やかなコントラストに耳を奪われる。
ひたすらに楽しい二楽章。一転して三楽章ではしっとり、でも思いっきり歌った演奏。
頭の中で二楽章のリズムがリフレインされながら、ベールのようにこの三楽章が被さってくる。
そして四楽章、楽しさをもう一度爆発させる。左手の伴奏に乗っかってくる右手がほんとに楽しそう。
植田さんがベートーヴェンを楽しんでいることが伝わってきた。量感ある低音に支えられた表情豊かな演奏。
聴きながら思わず笑顔になってしまった。そして、ラストも持って回ったような引き伸ばしをせずにサラッと軽めの音で切り上げる。
動けないような感動を与えるのではなくて、「楽しかった!もう一度聴きたい。リズムやメロディーの一部が頭から離れない。」という
思いにさせてくれる演奏だった。こういう演奏凄く好きです。
全体的に、プログラムが進むにつれてどんどん調子を上げて演奏されていたのではないだろうか。
No.13の後半ぐらいから植田さんの持ち味(だと僕が勝手に思っている)の重さと鋭さを備えたスフォルツァンドが聞こえてきたと思う。
アンコールもすべてベートーヴェンで、〆は昨年と同じく『エリーゼのために』。力の抜けた演奏、たっぷりとルバートをかけた演奏で、
誰もが知るあのフレーズに聴き入った。
久しぶりにコンサートへ足を運んだがやっぱり生演奏はいい。外からはもちろん、身体の中からも元気が湧いてくる。
素敵な時間を過ごさせてもらいました。チケットをくれたNさんありがとう。またみんなで何かコンサート聴きに行きましょう。