ひたすら執筆。
雨の冬場はいい。家から出ないで机に向かい続けることが不健康に思わないで済むから。
文献によって足の踏み場の無くなった部屋で恩師から頂いたスピーカーを鳴らし、バルザックも真っ青な勢いでコーヒーを摂取して書き続ける。
届いたばかりの加湿器に自分でブレンドしたアロマオイルを差して、モーツァルトのピアノ協奏曲を順番に流す。時々口笛で合わせて吹きながら鍵盤を叩く…。
ギリギリまで足場を組むことに集中して、直前で一気に立ち上げ、ステンドグラスを嵌めて行く。そういう感覚で書いている。
中学受験勉強をしていた小学生の頃を唐突に思い出す。
ワケもわからず聞いていたけれど、とにかくモーツァルトのピアノ協奏曲(それからフルート&ハープ)が一番大好きな音楽だった。
あるべきものがあるべきところに落ちてくるようで、音楽の専門教育を受けていた身でない自分にとっても、何か自然な音楽であるように思えた。
たとえ短調であっても、どこかで人の心を明るくしてくれるような微笑みを感じて、これを聞いていると上機嫌でいることが出来た。
指揮するようになった今、改めて聞いていてもその感想は変わらないけれども、溢れてくるような幸せと同時に、モーツァルトの仕掛ける遊びにハッとする。
あんなにシンプルな音符の数々から光と影の移ろいが生まれる。雄弁なバスライン。いい笑顔で寄り添いながら時々繋いだ手を振り回してくれるような音楽。
十五年が経った今でも、僕が一番好きな音楽はモーツァルトのピアノ協奏曲かもしれない。