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三本の指揮棒

 

フィリピンで一ヶ月続いたコンサートツアーが終わったあと、セブ島にあるSeven Spirit音楽教室の子ども達に、僕の使っている指揮棒を三本渡した。

最初から渡すつもりでいたわけではないのだけれども、二月に訪れた時に指揮を教えた子どもと、今回の指揮者体験コーナーで見事な指揮を披露してくれた子たちにせがまれて譲ってしまった。

 

指揮棒は単なる棒に過ぎない。これで弦をこすっても音は鳴らないし、息を入れる場所もない。一人で振り回したって何にもならない。

それでは一体、指揮棒とは何か?もちろん指揮棒を持つことによって生まれる技術的なメリットというのは沢山ある。

しかし正直なところ、これが無くたって指揮することはできるし、持たない指揮者だって沢山いる。

 

けれどもやはり、指揮棒を持つということは、指揮者として認識されるということだ。それは技術というよりむしろ精神に関わっている。

音の出ないものを用いて、いかにして音を作っていくか。棒を手にした子どもは、それが音が出ないものであるからこそ、そう考えるに違いない。

ステージの上で唯一、みずから音の出ないものを持って、しかし最前列に立って大勢を導いて行く。指揮棒を取るということは、そういう「勇気」を表すものだと思うのだ。

 

 

三本の棒を渡すときにふと考えた。

三本というのは、とても良いな。それは過去と現在、そして未来だ。

大袈裟かもしれないけど、三本を渡す事によって、二月・九月と一緒に過ごした時間を思い出しながら、その先を、未来を指揮してほしいと思ったのだ。

 

次にセブを訪れるのはいつになるだろう。

演奏会の終わったステージで、即興演奏をはじめる奏者たちに手にしたばかりの棒を振り回し、「ほら!」と嬉しそうな顔をこちらに向ける子どもたち。

いつまでもその勇気と笑顔を忘れないでいてほしい、と心から祈った。

 

 

未来を預ける