ムソルグスキー作曲/ラヴェル編曲の「展覧会の絵」を指揮し終えた。
一曲ずつ仕上げて行って、最後に、頭のプロムナードから終曲のキエフの大門まで一気に通して振る。
沢山の発見があり、沢山の感動があった。一つずつ細かく書くことはしないが、箇条書きにして少しだけ残しておこうと思う。
1.プロムナード
軽い音楽ではない。ロシアの響きにするためにはどうするか。楽器が増える意味は何なのか。
2.グノーム(小人)
迫り来るもの。不気味に踊るもの。ぞっとするような、血の気の引くような感覚。青ざめた死。
3.プロムナード(Moderato e con delicatezza)
平静な心。喪失の感情。時間を巻き戻すような感覚。
4.古城
イタリア語で書かれている理由。スラースタッカート&テヌートの意味するもの。湖。霧。石造りの城。時間の風化作用。
5.ティユルリー、遊んだ後の子供の喧嘩
他愛なさ。平和な光景。市民革命の後の開けた空気。見守る大人の存在と走り回る子供。
6.ビドロ(牛車)
苦しみ。重い荷物を引きながら遠くから目の前を牛車が横切る。泥濘に足をとられながら。
同時に悲劇。荷物を引きずる牛と、虐げられたポーランドの民衆のアナロジー。処刑。
息のつまるような苦しみ。目の前に轟音を立てて迫ってくる光景。
7.卵の殻をつけたひな鳥のバレエ
黄色の原色。よたよた歩き。滑稽さ。Scherzinoであることの意味。遊びの要素。
8.サミュエル・ゴールデンベルグとシュムイレ
二人のユダヤ人。怒りとすがり。沸き上がる感情と一歩下がりながら要求するもの。ポグロム。
9.リモージュの市場
取っ組み合いの女のスケッチ。リモージュ市場のかしましい女たち。沢山のパーツがさりげなく鏤められる。
accelerando前後の心情。色が一気に変わる。
10.カタコンブ
死。絶望。墓。音楽はギリギリのところで動く。心が沈み込む。深く鈍い音。
11.死者の言葉で、死者に。
lamento.冷たい青。六拍子であることの不気味さ。非現実的な音の冷たさ。死者の世界、死者の言葉。ハープの意味。
12.バーバ・ヤーガの小屋
重み。死の衝撃。静かではない死の世界。唐突さ。厚み。死から現実、現実から死へ。壮大なブリッジ。
13.キエフの大門
未完成。ロシアの芸術、目指したものの姿。ガルトマンへの追悼。プロムナードが木霊する。
差し込む光。強烈な光。視界が真っ白になるような金色の光。悲しみに満ちて輝く。
展覧会の絵は明るい曲じゃない。悲しみや追悼、死。そういったものがこの組曲全体を支配している。
どんなに明るい曲でも、ムソルグスキーは決してガルトマンの絵の事を、ロシアのことを、「死」のことを忘れてはいないように思う。
この曲を指揮するのが一つの目標だった。けれども、ゴールだと思っていた「キエフの大門」を振り終えたとき、キエフの大門をあけたとき、
そこに見えた光景はゴールではなく、限りなく広がるスタートだった。
プロムナードの旋律に導かれ、キエフの大門をくぐって音楽の入り口へ。
果てしなく広がる音楽の世界へ。