週末恒例の映画鑑賞祭その2は『モンテーニュ通りのカフェ』、原題を訳せば「オーケストラ・シート」。
公開は2006年、ダニエル・トンプソン監督による作品です。あらすじを引用しておきましょう。
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パリ8区、モンテーニュ通り。この通りからは美しく聳え立つエッフェル塔が見える、パリきっての豪奢な地区。
モンテーニュ通りにはすべてのパリがあった。劇場、オークションハウス、有名メゾン、由緒あるカフェ、
そして出会いと別れ。そのカフェに集うのは、演奏を控える著名ピアニスト、自分の生涯のコレクションを
競売にかけようとしている美術収集家、舞台の初日を迎えようとする女優など。
様々な思いを持った人々の人生が、実在する“カフェ・ド・テアトル” で交差していくのだった。
そんな中をパリに憧れ上京し、カフェの“ギャルソン”となったジェシカが、蝶のように軽やかに彼らの人生の
間を飛び回る。オーダーされるカフェ・クレームやデザートは、彼女にとって夢へのチケット。
憧れの人々の素顔とその人生に心躍らす時間が、輝く宝石のように横たわっていた…。
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いやー、これはいい作品でした。見終わった後に凄く幸せな気持ちになれる。思わず笑顔がこぼれます。
決して単純なラブストーリではなくて、登場人物たちの抱える悩みや挫折が効いていて、どこかほろ苦い。
音楽と美術と演劇、そしてそれらの芸術に仕える人々が一つのカフェでそれぞれの人生を交錯させます。
その中心にいるのは、田舎からやってきて、たまたまそのカフェで雇われたジェシカ。
ジェシカ役のセシール・ド・フランスのチャーミングな笑顔と明るい振る舞いが何とも見事です。
心の奥に辛さを秘めながら、屈託のない笑顔でPourquoi? (なぜ?)と誰にでも聞くジェシカに
登場人物たちがバラバラに出会うことで、それぞれの人生が動いてゆく。それは恋愛であったり、ピアニスト
としての将来であったり、親子の絆であったりして、見るものにどこか共感を引き起こさせます。
随所にエスプリが効いていて、というフレーズはフランス映画評論の決まり文句みたいなのであんまり
使いたくないのですが、「エスプリ」としか表現できないような節回しが確かに効いていて、見ていても
セリフを聴いていても飽きません。長く連れ添った彼女と別れるかどうか苦悩するピアニストに向かって、
「君は一緒にエレベーターに乗り、最上階まで来たわけだ。でも。君は降りたくなった。彼女は降りるかな?」
と問うシーンや、「君の隣の席は空いてる?」とグランベールの息子を演じるクリストファー・トンプソンが
告白するシーン(クリストファー・トンプソンのイケメンっぷりが半端ないです。ジャケットのシルエットが
めちゃくちゃ美しくて、思わずポーズボタンを押して鑑賞してしまいました。まさにクール&ダンディの権化。)
「戦争の相手は君じゃない。」と復縁を伝えるシーンなどは「うまいなあー!」と手を叩きたくなる思いがします。
でも、この映画を見た人なら、一番のセリフはおばあちゃんのTu es mon soleil (あなたは私の太陽だわ。)
だと思われるかもしれませんね。この映画を象徴するように最初と最後で同じように語られる
この温かいセリフ、ラスト・シーンで聞いたときにはホロッと涙が出そうになりました。とにかく素敵な映画です。
あと、本編とはあまり関係がありませんが、劇場の裏方役のおばちゃんがつけていた最後のイヤフォンが
Bang & Olufsen のA8というモデルでしたね。以前に一目惚れして愛用していたイヤフォンだったので
とても懐かしい気分になりました。もうあれから6年・・・時間が経つのは早いものです。