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クリュイタンスの「幻想交響曲」1964.5.10@東京

 

 全部聴き終えた。これは尋常ではない演奏だ。こんな「幻想」、はじめて聞いた。

二楽章のワルツの官能的な重さとリズム、三楽章の孤独、一転して四楽章から五楽章の狂気。

「ワルプルギスの夜の夢」のラスト、トロンボーンを置いて行くような圧倒的加速。有無を言わさぬ迫力だけど、クリュイタンスは

冷静に音楽を作っている。テンポをあれほど動かしても格調高い。最後には夢に包まれたような高揚感が残る。

 

 メインプログラムの「幻想」だけではなく、アンコールの二曲も凄い演奏だ。

一曲目の「展覧会の絵」の「古い城」は、途方もなく寂しい。アルトサックスのすすり泣くような音。

二曲目の「アルルの女」の「ファランドール」の堂々たる風格。終わりに近づくにつれ加速する音の塊が、闇に打ちあがる花火のように

目の前で弾ける。このCDに収められた演奏、1964年5月10日の東京ライブは全てが奇跡的な素晴らしさだ。

名盤と呼ばれて長く愛されるのも当然だろう。このライブが行われたとき僕はまだ存在すらしていなかったが、

実際に聴きに行っていたならば、終演後、しばらく放心状態になっていたと思う。

音楽が「分かる」とか「分からない」ではなく、この演奏は音の内容をダイレクトに「伝える」。

 

 何度聞いても本当に壮絶な演奏だ。久し振りに、聴き終わって動けなくなるCDに出会った。

 

大阪と神戸を歩く。

 

 帰省してこんなことをやった。

 

・大阪梅田のワルティ堂島というCDショップで、CDを四枚購入。

1977年東京文化会館で行われたカール・べームのブラームス二番のCDと、同じ年にNHKホールで行われたベームの

ベートーヴェン六番/五番のCD。それから1964年に東京文化会館で行われたアンドレ・クリュイタンスによるベルリオーズの

幻想交響曲のライブ録音、そしてシャルル・ミュンシュの幻想交響曲の録音(1967)。まだ全部は聞けていないのだが、

クリュイタンスの幻想ライブから伝わってくる熱気とベームがブラ2で聞かせるリタルダンドには驚かされた。

やっぱりライブ録音は聴いていて楽しい。

 

・恩師と呑んで語る。

駿台世界史科の川西先生に、ランチに御一緒させて頂いた。まず駿台神戸校の講師室を覗こうとしたところ、その部屋の前にある

長椅子にどこかで見た人が座っていた。まさか、と思って足を止めるとその人と目が合って、共に駿台で川西先生にお世話になっていた

友達であることが判明。いま早稲田に通っているその人も、帰省して川西先生に会いに来たとのこと。

三人で昼間っからワインを呑みながら近況を報告し合ったり、おすすめの本の話をしたりしているうちにあっという間に時間が

経ってしまった。ごちそうさまです。川西先生にケン・フォレットの『大聖堂』という本を勧めて頂いたので、先生たちと別れたその足で

ジュンク堂にて購入。全三巻という大作だ。レジに持っていったとき、前に並んでいる人が葺合高校の制服であることに気づく。

懐かさと同時に、自分が年をとったことを感じた。

 

・神戸を歩く。

浪人中の友達と三宮で呑むことになっていたので、その前に神戸の雰囲気を満喫しようと思って三宮の町を歩いた。

神戸はやっぱり雰囲気がいい。街に風が通っている。高いビルの間からは山の緑が見えるし、その反対側には、目では見えない

けれど確かに海が広がっているはずだ。じっとしていも汗をかくような湿気と気温の一日だったが、この街を歩いていると爽やかな

気持ちになる。ニ年前に足しげく通った何軒かの店も以前と同じように看板を出して営業しており、ちょっと安心した。

 

・弟とボウリング

ほとんどボウリングをやった事のない弟にスパルタで基礎を叩きこんできた。場所は茨木のBIGBOXで、このセンターははじめて。

マイボウラー用とハウスボウラー用でレーンを分けてあるようだ。オイルもしっかり入っていて、アプローチからレーンまで非常に

しっかりとメンテナンスされたセンターだという印象を受けた。弟も僕と同じく左利きのため、投げているとレーンコンディションが

どんどん変わってゆく。パッションでポリッシュしてもらったばかりのセル・パールを活用して、なんとかアベレージ200弱をキープ。

このセンター、値段も安いし(お盆料金を設定していない事に感動した。マイボウラーは5ゲーム1400円という格安料金で投げられる。)

広々としていて雰囲気も良いし、帰省している間はここで練習しようかと思う。駅から少し離れていることだけが欠点だ。

 

・『風の大地』の1-49巻を読了。

ゴルフ漫画『風の大地』が49巻まで、いつの間にか実家に買い揃えられてあったので、二日かけて一気に全部読んだ。

これは面白い。気合が感じられる画で、シナリオも飽きさせない。ラウンドしているときの主人公の話し方が時々ゴルゴ13っぽくなる。

とはいえゴルゴのように殺伐とした話ではなく、ヒューマニスティックでなかなか感動的な作品だ。続きを読むのが楽しみ。

 

・ハイドンのピアノコンチェルト二楽章を読む。

電車の中でアルゲリッチの演奏を聴きながらスコアを広げていて、この曲の二楽章が突然身体に染み込みはじめた。

アルゲリッチが弾くカデンツァの切なさに呆然とするほどの衝撃を受けた。何度も何度も聴いているはずなのにどうして今まで

気付かなかったのだろう。この曲の二楽章はすべてこのカデンツァのためにあるのではないか、とさえ感じる。

二楽章に限ったことではないが、譜読みしていると次から次へと新しい発見があって飽きない。

無人島に何か一冊だけ本を持ちこむなら、と言われれば、僕は何かのフルスコアを持って行くだろう。

 

・携帯の機種変更

バッテリーの接触部が怪しくなってきたので、この機会に機種変更することにした。候補は935SHと931SH。

スライド式はあまり好きではなかったので防水機能もついている935SHにしようかと思っていたが、色々調べているうちに931SHの

魅力にハマり、こちらにすることにした。はじめてのスライド式&フルタッチパネルである。液晶の大きさと美しさが特に素晴らしい。 

 

帰省と『世界は分けてもわからない』(福岡伸一,講談社現代新書,2009)

 

 部屋を片付け、戸締まりをチェックし、買ったばかりの白シャツを羽織って家を出る。

一度駒場に寄ってロッカーからサッカーのスパイクを取り出し、合宿解散後と思しき学生たちの列に紛れながら渋谷へ向かう。

渋谷から新宿へ、それから中央線で東京駅へ。座席を取った新幹線までにはまだ少し時間があったので、八重洲北口の近くの

ロッカーへ荷物を全て入れ、財布と携帯だけを持って丸の内北口へ歩いた。

することは決まっている。OAZOの丸善で、車内で読むための本を買う。そのまま階を上がり、丸善の文房具売り場を冷やかした後、

新丸ビルへ向かう。ここで何を買うわけでもないけれど、僕はこの新丸ビルの内装と雰囲気が大好きだ。

重厚さを持ちながら圧迫感の無い空間。パサージュに並んだ店を通ってゆく快感。

間接照明が壁の木目に何とも言えない影を作っている。この空間が本当に似合う大人になりたいと思う。

エスカレーターを上がったところの広間には見るからに座り心地の良さそうなソファが並んでいるから、新幹線の時間を待つために

一階が見下ろせるソファの一つに座って、買ったばかりの『世界は分けても分からない』を読み始めた。

 

 東京を電車が離れてゆく。あっという間に東京が後ろへ流れ去ってゆく。逆説的ではあるが、このようにして東京駅を後にするたび、

僕は自分が東京で生活していることを実感する。戻る場所が二つあるのは幸せなことだ。

名古屋を過ぎたあたりで『世界は分けてもわからない』を読み終えた。ちょっとしたオチが隠された話になっているから、

ここに詳しく書く事は避ける。前著の『生物と無生物のあいだ』でも感じたことだが、福岡伸一はやはり「読ませる」科学者だ。

断片的なエッセイのような文章。しかし、それが全体の中ではしっかりと繋がりを持っている。とりわけ面白かったのはES細胞を

「空気が読めず、自分探しをしている細胞」と説明している部分や、ガン細胞を「あるとき急に周囲の空気が読めなくなった細胞、

停止命令が聞こえなくなった細胞」だと定義している部分。これらの記述が見られる第四章は、ES細胞とは何なのかを非常に

分かり易く読ませてくれる。それから第六章の「細胞が行っているのは懸命な自転車操業なのだ」などのくだりも面白かった。

 

 さらに第六章では人の生・死をどこに求めるかという点が書かれているが、ここでの「人が決める人の死は生物学的な死から離れて、

どんどん前倒しされている」という記述はたった一行に留まらぬ深さを持った問題であろう。(ここから、「人の死」を脳死とするなら、

論理的対称性から、「人の生」は脳がその機能を開始する時点に求められるという「脳始」論が構想されることになる。だが、これは

生物学的な生の両端を切断することに他ならず、我々の生命の時間を縮めることになる。)

 

 第七章は様々な事例を参照しながら、記憶と認識の関連を探った章である。ここでとられているのは科学的なアプローチであるが、

それはP158の「顔とは・・・(中略)・・・私たちの認識の内部にある」という一節に見られるように、アンリ・ベルクソンの哲学を想起

させる。ベルクソンの記憶論を、実例を用いながら検証しているような思いにさせてくれる章であった。

第八章から第十一章の「ストーリー」は、実際に本書を読んでドキドキするのが一番だと思うので、ここには書かない。

『生物と無生物のあいだ』のみならず、『もう牛を食べても安心か』や『動的平衡』など、福岡伸一の本は今までハズレが無かったので

今回も楽しみにして買ったのだが、予想よりも遥かに面白い本であった。文系・理系関係なく、気楽に読んで楽しめる本だと思う。

 

 新幹線を降りると京都特有の湿った暑さが立ち込めていた。

エスカレーターではみんな右側に立っているし、周りから聞こえてくる言葉も関西弁ばかりなのでホッとした気分になる。

帰省しているのはわずか二週間に過ぎないが、予定は大量に詰まっている。母校の会議に出たり高校時代の友達とサッカーをしたり、

浪人時代の友達と会ったり、生き別れ(?)になってしまった僕のボウリングの師を探す旅に出たり・・・。

しばらく京都や大阪、神戸を行ったり来たりすることになるだろう。駿台神戸校で恩師の授業にも潜り込んでみようと企んでいる。

 

オープンキャンパスに来てくれた方々へ

 

 オープンキャンパスで東大ガイダンスのイベントへ来て下さった受験生の方々、ありがとうございました。

何人かの方とは直接お話しすることができ、微力ではありますが、経験に基づいたアドバイスを送ることが出来たのではないかと

思っています。とくに、日本史の論述対策で悩んでいるという地方の受験生の方々に「つかはらの日本史工房」の存在を伝える事が

出来て良かったです。皆さんから頂いた質問は受験勉強の方法から一人暮らしに対する不安まで様々でしたが、

以下では受験勉強に関する質問について、覚えている限りでここに簡単に纏めてみようと思います。

(あくまで僕の体験に基づいたアドバイスです。当然、これが東大受験生全員にとって最良の方法だというものではありません。)

 

【受験勉強編】

Q.数学が苦手です。どうすればいいですか。

A.僕も数学が死ぬほど苦手だったので、浪人中必死になってやりました。

結論から言うと、信頼に足る参考書を何度も何度も繰り返すのがベストです。

ではどのような参考書がいいのかと言いますと、合格者が愛用していたものは以下の三つがメジャーだと思います。

・青チャート(数研出版)⇒赤じゃなくて青で十分。何度も何度もやり込んで、解答がすらすら頭の中で再生できるぐらいにする。

・一対一対応(東京出版)⇒青チャートよりややハイレベル。ただし、解答が洗練されているのでこのレベルをやりこめば二完は固い。

・スタンダード演習(東京出版)⇒おすすめ。難易度は幅がかなりあるが、良問ぞろいで解説も詳しい。僕はこれしかやりませんでした。

これを何十回も繰り返しているうちに、「受験数学は所詮このテキストにある問題のバリエーションに過ぎない」と悟りました。

さらに東大で頻出の整数分野・確率分野を鍛えたければ、東京出版から整数分野と確率分野のみを集めた問題集が出ていますので

これをやると整数・確率の問題には絶対の自信がつくでしょう。とくに整数の問題集は鮮やかな解法だらけで感動させられました。

 

 

というわけでⅠAⅡBに関してはスタンダード演習を本当におすすめします。飽きるほどやって下さい。なお、予備校の授業で

「東大対策プログラム」などというセットを取っていても、数学に関してはよっぽど素晴らしい授業で無い限り、自分で解きまくるほうが

遥かに効率が良いはずです。数学に限った事ではありませんが、いらない授業や効率の悪い授業を「切る」勇気を持って下さい。

(親に学費を出してもらっている手前上、授業を「切る」ことは決して良い事ではありませんが、合格しないと何の意味もありません。)

 

Q.国語が苦手です。特に古文・漢文。

A.東大文系を受験しようとするなら、これはマズイです。まずセンターの古文・漢文はコンスタントに満点近く取れるような基礎学力を

つけて下さい。古文に関しては文法と単語を徹底的に叩きこめば必ず読めます。漢文は『早覚え即答法』という名著がありますので、

これを完全に吸収した上で演習を重ねて下さい。あとでも述べますが、東大二次の得点源は明らかに古文・漢文です。

基礎学力が身に付いている(≒センターが確実に取れる)と思ったら、東大二次の過去問(赤本や青本より、鉄緑会が角川書店から

発行している過去問集に極めて優れた解答と解説とがついているので、これをお薦めします。)をどんどん遡って解いていって下さい。

ここでのコツは、「実際の解答欄のサイズに、実際に記述してみる」ことです。意味が分かっていても文章にならなかったり

枠に収まりきらなかったり、書いてみたものの論理構造がおかしかったり、様々な問題が出てくるでしょう。

実際に書いてみることによって自身の欠点を浮かび上がらせ、その部分を鍛えていって下さい。とにかく書くことです。

 

Q.二次の現代文が取れません。

A.まず設問にしっかりと答えることを意識してください。「理由」とあったらきちんと「理由」を答えるように。その上で、主語と述部を

決定し、その主語と述部に論理矛盾しないように解答に必要な要素を入れて下さい。一応このようなアドバイスをしましたが、実は

合格者にしろ不合格者にしろ、「東大受験者のほとんどが現代文で高得点を取ることが出来ていない。」というデーターがあります。

つまり、二次の現代文の得点に過剰な期待を抱いて「合格のための得点プラン」を組むのは極めて危険です。現代文は4割ぐらい

得点出来ればそれで十分と思って、期待しないようにしましょう。それでも漢字は間違えないように。

 

Q.東大英語の点数が伸びません。

A.時間配分は大丈夫ですか?東大英語は時間との勝負です。どこから解いていくかという戦略が必須です。

まず、リスニングまでにどの問題を解くのか。そしてリスニングのあとに何分でどこを解くのか。これは早いうちに決めておきましょう。

その上で、リスニングと英作の部分で点数を掻き集めましょう。リスニングは毎日ラジオ講座か何かを聞いて実戦(問題を解く)を

数多く繰り返す練習をすべきです。その際、直前期にはイヤホンではなく音質の悪いスピーカーでリスニングする練習を積んでおくと

本番の音の悪さにも慌てず対応できます。英作は例文を暗記しまくって、そのバリエーション(単語を変える)をアウトプットしてください。

ただし、東大英語の英作で狙われやすい構文や文法事項が存在するので、そこは文法的に固めておく必要があります。

具体的には過去完了や仮定法、話法、さらには基本動詞の使い分けなどです。このうち、基本動詞の使い分けについては

「基本頻出英単語の使い分け」という本を参考にするのが良いかもしれません。この本は大学に入ってからも使えます。

 

Q.英語の長文を読むのが遅くて困っています。

A.まず単語力が足りていないのならば、単語力を早急に補強してください。単語帳は好きなものを使えばいいですが、僕は

「単語王」を愛用していました。また、単語だけでなくイディオム帳も並行してやるべきです。イディオムを完璧にしておくと

センターの文法問題や東大二次の小説問題などで効いてきます。単語帳以上の語彙力を身につけたい方は、文春新書から出ている

『語源で分かった!英単語記憶術』が、コストパフォーマンス的にも抜群に良い本です。さらに、東大で頻出の前置詞問題を

鍛えたければ、『前置詞が分かれば英語が分かる』(刀祢 雅彦)を読んでみるといいでしょう。意外と侮れないのは

「イメージでわかる単語帳―NHK新感覚☆キーワードで英会話」で、ポップな表紙と裏腹に内容は結構濃い参考書です。

二次試験で必要とされる、[ 基本単語・前置詞のイメージ ] が湧かない方は是非これを手にとってみてください。

 

Q.世界史論述が書けません。

A.まず基礎知識は十分ですか?「基礎知識が十分」とはどのようなレベルかというと、東大二次世界史の第三問がコンスタントに8割

以上正答するレベル、さらに大問Ⅰの大論述にある指定語句のほとんどの意味・文脈を説明する事が出来るというレベルです。

指定語句が初見であったり時期を思い出せないようであればそれは基礎知識不足です。とくに時代ごとの世界の様相

(例えば、「○○世紀の西洋はどのような王朝・どんな宗教に支えられた国があって、こんな動きがあって、国と国との交流はどうで、

あんな侵略や戦争があって、その影響を受けてここの制度が変わって・・・」のように。)

をビジュアルに、地図上に書き込めるような形で記憶しておくことが必須でしょう。

基礎知識が十分だと感じたら、過去問をどんどん解いていって下さい。この際、教科書や参考書を見ながらが書くことが大切だと

世界史の恩師である駿台の川西先生もおっしゃっていました。正しいデーターを参考にしながら、自分で苦労して「構成」して書いた

文章は簡単には忘れません。書いたら信頼できる先生に添削してもらって下さい。ちなみに青本や赤本の答えには、

「東大が求めた解答」だとは到底思えないような解答が多々見られますので、青本や赤本の答えを信頼しないようにしましょう。

 

Q.日本史論述が意味不明です。

A.「つかはらの日本史工房」および塚原先生の『東大日本史二十五か年』 を読み込んでください。よく言われるように東大日本史には

些末な知識は要求されていません。しかしある程度の知識、史料が示している事象を理解することができる知識量は必須です。

人名を覚えようと努力するのではなく、その時代の様子、システムの内容、施策の意味などを中心に覚えていくべきでしょう。

日本史に関しては僕がここに書くより、塚原先生のページと本を隅から隅まで読んでもらうのが一番早いと思いますのでこれぐらいで。

 

Q.地学や倫理など、センターのみで使う科目の勉強に手が回りません。

A.たぶんみんなそうです。地学や倫理などに関しては、中経出版の「おもしろいほど~」シリーズを一冊やりこんでおけば

それなりの点数が取れるはずですが、最も重要なのは過去問をやりまくることです。河合塾の過去問集(黒本)をどんどん解いて、

解説を暗記したり要点を抜粋したりしてみてください。これらの演習は時間的にも精神的にもさほど負担にならないと思うので、

二次試験の勉強の合間に挟んでみたり、一日のはじまりと終わりに入れてみたりすると良いでしょう。

 

 

Q.おすすめのノート法とかありませんか?

A.これはもう人それぞれだと思います。とりあえず、「東大生のノートは必ず美しい」などということはありません。(僕自身がその反例)

僕が愛用していたのは、marumanから出ているB6ルーズリーフです。論述のトピックをまとめたり、英文法の要点をまとめたり、

地学や倫理の過去問から引っ張ってきた要点をまとめるのに使っていました。なぜこれが良いかというと、このB6というサイズが

僕の場合、パッと見ただけで全体を読むことのできるサイズだったからです。これを写真のように目に焼き付けて覚えていました。

なおかつ、小型なので持ち運びやすい、リング式なので順番入れ替えが可能(順番を入れ替える、というのは順番を理解していないと

出来ない作業なので、入れ替えるだけで勉強になります。記憶にも残るしね。)、万年筆のインク乗りが良い、などの理由もありました。

なお、勉強に万年筆を使うのはとても効率の良いことだと思っています。まず、万年筆でノートを取っていると授業中に眠たくなることが

ある程度防げます。というのは、うつらうつらしてペンを落としてしまおうものなら、ペン先が曲がって一貫の終わりだからです。

そして万年筆で書いていると様々なトラブルが発生します。インクが手に付いたり、インクが漏れたり、水で滲んだり・・・

そのようなトラブルが毎日に刺激(?)を与えてくれるでしょう。一番大きいのは、万年筆を使うと「速く・楽しく書ける」ということ。

万年筆は筆圧をほとんど必要としないので、慣れれば流れるように速く書けます。僕はこの性能を利用して、先生の口述を雑談から

すべて書きとっていました。(もちろん口述の内容をまとめながら書いたのであって、そのまま書きうつしたのではありません。)

これをやっていると眠たくなる暇なんてありませんよ。

個人的な趣味が多分に含まれている勉強法ですが、一度やってみてはいかがでしょうか。

(はじめて買うならウォーターマンのエキスパートあたりをおすすめします。鉄ペンにも関わらず、書き心地が素晴らしいです。)

 

 

 こんなところでしょうか。また思い出したら書きたいと思います。

直接話した高校生たちに僕が毎回伝えたことは、「本当に東大を受けたいと思ったなら周りの人の意見に流されるな。」

それから「東大は浪人してでも来る価値があるよ。」ということです。地方在住の方などは一緒にこの大学を目指す友達が少なくて

何かとやりづらい思いをすることもあるでしょうが、それでも諦めないで欲しい。地方出身のクラスの友達は、受験生時代を振り返って

「自分の意思を強く持って、自分に厳しく過ごしていた。今の自分から見てもビックリするぐらい自分に正直で、厳しかった。」

と言っていました。

そしてまた、浪人時代はそう悪いものではありません。浪人時代にしか会えない友達や、経験できない事は沢山あります。

オープンキャンパスに訪れてくれた受験生はほとんど高校生だと思うので、浪人を恐れずに、東大を受けると決めたら

初志貫徹して飛び込んで下さい。駒場キャンパスで待っています!

 

こんなモノを買った Part2

 

東京-神田-渋谷-新宿と回って買い物をしてきました。以下、買ったものリスト。

 

【本】

・Joseph S.Nye Jr  ” THE PARADOX OF AMERICAN POWER “   (Oxford University Press,2002)

⇒神田の古本屋で発見。2002年にエコノミスト紙とワシントンポストの両方で「Best Book」に名が挙げられた本であって、作者の

ナイは国際関係論の講義でもしばしば紹介される『国際紛争 -理論と歴史-』(有斐閣) を書いた人でもある。

 

・熊田為宏 『演奏のための楽曲分析法』 (音楽之友社,1974)

⇒渋谷のYAMAHAで発見。表紙だけ見ると幾何学か何かの教科書みたい。譜例も豊富で、内容は結構充実していると思う。

昔に購入した島岡譲 『和声と楽式のアナリーゼ』をもう一度読み返してから本書を読むつもり。もともとこの本を買うつもりはなくて、

作曲やオーケストレーションをする人の聖典である伊福部昭 『管弦楽法』を買おうと決心してYAMAHA渋谷に入ったのだが、

やはりその値段(24000円!!)に躊躇してしまった。手に取って眺めて、さんざん悩んで溜息とともに本棚に戻す。これで二度目である。

値段の価値はある本だろうし、絶対に読まなければならないのは分かっているのだけれど、流石にこの値段の本は買いづらい。

というわけで、お酒を飲んだ後とか、テンションが高い時に勢いで買ってしまう作戦に出ようと思う。

 

・Albert Camus ” L’Étranger “  (folio)

⇒ 「きょう、ママンが死んだ。もしかすると昨日かもしれないが、私には分からない。」

( Aujourd’hui, maman est morte. Ou peut-être hier,je ne sais pas. ) で始まる一節があまりにも有名なカミュの『異邦人』。

「一昔前、フランス語をある程度学んだ仏文志望の学生はこぞってこの『異邦人』の原書に挑戦した。」という話をある先生から

お聞きしたので、夏休みをかけて同じ事に挑戦してみようと思い立ち、OAZOの丸善で購入。

先生曰く、「この本はフランス語の文法の勉強にもなるよフフフ・・・」とのことだったが、パラパラめくっているうちのその意味を理解した。

冒頭のmaman est morte. からしてêtreの現在形+過去分詞という複合過去形であるように、複合過去が多用されているのだ。

なるほど、これを読み切ったらきっと複合過去は怖くなくなるだろう。毎日ちょっとずつ読んでいきたい。

 

・『フランスの伝統色 The Traditional Colors of France 』 (PIE BOOKS,2008)

⇒昨年からずっと狙っていた本。デザインするときの色遣いに幅が出ればと思って購入。J.HERBIN(万年筆のインクメーカー)

のインクで見られるような、何とも言えない色合いがCMYK、RGB数値つきで載っていてとても参考になる。

青ひとつにしても、Mer du sud (南の海の青)や、Bleu Monet (モネのブルー)、Céleste (天空の青)など、名前も色も様々である。

この本には同じシリーズに『日本の伝統色』があるので、こちらもいずれ購入するつもり。

 

【その他】

・MDノート(横罫) +MDノート用ブックカバー

⇒以前もブログで取り上げたMDノートA4サイズ。横罫を一冊使い切ってしまったので補充した。ついでにこのノート用のブックカバーも

合わせて購入。MDノートは白を基調としたデザインだから、僕のように扱いが荒っぽい人間が使うとすぐに表紙が汚れてしまう。

「それも味の一つ」と自分を納得させて使っていたが、やっぱり元通り白いほうがいいので、このブックカバーをかぶせて使う事にする。

 

・ファーバーカステルの8Bの鉛筆

⇒楽譜への書き込み用。楽譜は自分で購入しているので、次に使う人に配慮する必要はないのだが、消しやすい方が何かと楽なので

筆圧をかけずに濃いマークや書き込みが出来る8Bの鉛筆を使用している。これとファーバー・カステルのエモーションという1.4mmの

芯が出せるメカニカルペンシルで書き込みをするのがお気に入り。ちなみにエモーションの軸色はオフ・ホワイトで、同じく白を基調に

したMDノートと一緒に使うと何だかスタイリッシュな気がしてくる。

 

 

 なお、明日(今日)は東大ガイダンスの相談員として駒場にいます。

このブログを見てくれている高校生の方で明日オープンキャンパスに来る人がいましたら、ぜひ寄って行って下さいね。

 

五連発に散る。

 

 髪を切って、久し振りにボウリングへ行った。

テストやらサーフィンやらで投げる機会がなかなか無く、投げたのは一週間半ぶりぐらいだろうか。

三日に一度は練習へ行っている身としては、一週間半投げていないと感覚が狂う。指も微妙に細くなってしまうので、

その調整だけでも一苦労だ。とはいえテープなどを用いた細かい調整は苦手なので、水分を多めに取って指を太らせることで

何とかしのいだ。いざ投げてみるといつもより球が走る。肘の入れ具合を強くしても、やはりフッキングがいつもより奥に感じられる。

どうやらオイルパターンが変わったようだ。しかし、手前にきちんとオイルが入っていて奥がはっきりメンテされているこのようなレーンは

とても好きなタイプのレーン。十五枚から五枚あたりまで出して回転・スピードともにしっかり乗せてやればストライクを量産できそうな

気がするぞ、と期待しながら投げ始めた。三ゲーム目で頭から五連続ストライク。ラッキーストライクが一切無しで五連発だったので、

これはパーフェクトもいけそうに思えてくる。よしよし、と思って投げた六フレーム目、オイルに捕まったのか何か良く分からないけど

薄く入ってしまって5-7が残る。周りにいた人の「あー・・・。」という声が聞こえてちょっと悲しい。

しかし、それにしても左利きにとって5-7のスプリットは致命傷だ。半分あきらめながら、5番薄目に当たればラッキーだと考えて

45キロでぶん投げる。

「スカーン!」「バキッ!」

ピンが飛んで行って奇跡的にカバーしてしまった。これは珍しい。(どうでもいいが、音だけで表現するとボウリングはえげつない競技だ)

この調子なら残り全部ストライク出してセミパーフェクトが狙えるぞと思って7フレーム目を投げる。

・・・見事に7-10のスネークアイが残りました(泣) さようならセミパーフェクト、こんにちはオープンフレーム。

 

 ここからスプリット恐怖症に陥り、細かいアジャストをすることが出来なくなってしまった。

頭から五連発出して210ちょっとにしか届かないのはヘタレ以外の何物でもない。やっぱり練習しないと腕は確実に落ちる。

帰省している間もちゃんと練習しようと思う。 ちなみに、横で投げていた常連さんが使っていたStormのVirtual Energyが

かなり良いピンアクションをしていた。甲高い音で、ピンを消し去るようなピンアクション。僕がかつて投げたことのあるボールの中では

コロンビア300のRock On Encore の音に近い。曲がりはあんまり大きくなさそうなので、思いっきり走るようにドリルしてもらって

外から攻めるのに使えば良い働きをしてくれそうだ。帰省したらまた一つボールを開けようと企んでいるので、このボールも

選択肢に入れてみようと思う。どっちみちプロショップには顔を出すので、H氏やN氏も時間が合えば一緒に行きましょう。

 

(スコアの画像を載せようと思ったが、なぜかアップ出来ないようだ。Wordpressはバージョンアップしてから動きがイマイチだなあ・・・。) 

 

 

J'ai passé une très bonne soirée.

 

  昨夜ハイドンのピアノ協奏曲を譜読みしていて、二楽章で分からないところがあったので動画を見ようと思ってタワレコへ行った。

買ってきたのが下の三枚である。

 

・Haydn Cello Concertos & Piano Concerto No.11 (  Mstislav Rostropovich , Homero Francesch, Neville Marriner )

. Beethoven Piano Concertos No.5 & No.3 ( Ikuyo Nakamichi, Paavo Jarvi )

. Beethoven Piano Concerto No.1 & Mahler Symphony No.1 (Margarita Hohenrieder, Fabio Luisi)

 

・・・案の定、関係ないものまで買ってしまいました(笑) まあどれもコンチェルトの勉強になるからいいか。

まず一枚目のハイドンだが、これはチェロのロストロポーヴィチの音がカッコよすぎる。剛健な音色。ハイドンのチェロ協奏曲ってこんな曲

だったっけ?と思ってしまうぐらい、ロストロポーヴィチの色が強い演奏だ。こういう演奏は嫌いじゃないし、リヒテルとロストロポーヴィチの

Beethoven Cello Sonata No.3を擦り切れるぐらい聴きまくった耳には、どこかほっとする音だ。チェロの音色はやっぱりいいなあ。

本命のピアノ協奏曲は、疑問点の解決のためのヒントを与えてくれはしたので役に立ったが、演奏自体はあまり好みではなかった。

何よりも指揮者のマリナーの顔が怖すぎる。『美味しんぼ』の海原雄山みたいな顔つきで、厳しい表情と楽しい音楽とのGAPが著しい。

これで音が明るかったら良いのだが、取り立ててそういうこともない、ストレートな(ある意味ドライな)演奏。マリナーは2007年に

N響へ振りに来ていたと記憶しているが、その時は「元気なおじいちゃん」という感じだった。DVDの収録は1982年とあるので、

僕の知っている来日時の姿より、25年も前の姿が収められていることになる。25年経てばこれぐらい変わっても不思議ではない。

ピアノはホメロ・フランチェスという人で、僕はこの人の名前も演奏もこのDVDで始めて聞いた。とくに「!」と思った部分は無かったが、

三楽章の150小節目、d moll に転調してピアノが連続トリルを駆け下りていく特徴的な音型の部分でやや変わった弾き方を

していたのが記憶に残っている。

 

 ニ枚目のDVDは「ベートーヴェン弾き」仲道郁代とパーヴォ・ヤルヴィのベートーヴェンのピアコン五番と三番。

仲道さんが一生懸命英語で喋っているドキュメンタリーが付いていたが、普通に日本語で話せばいいのに、とついつい思ってしまう。

それはともかく、ここに収められた仲道さんのピアノはパワフル。さらっと流すような演奏ではなく、ガンガン攻めてくる。

ヤルヴィとカンマーフィルはノン・ヴィヴラート奏法で演奏しており、ベートーヴェンの交響曲の演奏で見せたのと同じ鋭さがある。

「英雄」の録音からも感じたことだが、パーヴォ・ヤルヴィのリズム感とアクセントの入れ方は本当にすごいと思う。

跳ねるような、弾けるような、言葉にはしがたい「目の覚めるような鮮烈さ」がある。音色やニュアンス、奏法の問題を超えて

ヤルヴィのような鋭いリズム感にはちょっと憧れるし、内声部をきっちりと動かしてゆく手腕にも溜息をつくばかりである。凄い。

ちなみに、ドキュメンタリーにはプロデューサーも映っているのだが、このプロデューサーが指揮者のチェリビダッケに似ていて

複雑な気持ちになった。プロデューサーにチェリビダッケがいたら、滅多にGOサイン出してくれないだろうなあ・・・。

 

 最後は、マルガリータ・ヘーエンリーダーのピアノによるBeethovenのピアコン一番と、ファビオ・ルイージによるマーラーの一番。

いずれもオーケストラはシュターツカペレ・ドレスデンで、僕にとってこのオーケストラはとても思い入れのあるオーケストラの一つだ。

というのは、シュターツカペレ・ドレスデンの1970年代-80年代のドイツ系レパートリーの録音は神がかった演奏だらけで、

浪人中に中古CD屋を巡って集めまくったからである。なぜこの時期のシュターツカペレ・ドレスデンの音が素晴らしいかというと、

理由は色々あるだろうが、僕にとってはある二人の奏者の存在が大きい。その楽器をやっている人なら絶対に知っている二人、

ホルンのペーター・ダムとティンパニのペーター・ゾンダーマンである。ダムの温かく柔らかな音は一度聴くと忘れられないし、

ゾンダーマンのティンパニは「こいつは何だ?!」と唖然としてしまうぐらいの迫力とノリを持っている。

1985年ライブ録音のブロムシュテット指揮の第九を聴いてみて欲しい。ティンパニの威力に絶句するに違いない。80年代の演奏からは

「ビロードのような」と評されるまろやかな音に加えて、オーケストラをぐいぐい引っ張っていける「名人」の芸を楽しむ事が出来るだろう。

今回のDVDでもその一端を少しは感じることが出来る。とりわけマーラーの終楽章なんかは音の美しさが分かりやすいし、

ルイージがぐっとテンポを落とすところの反応も鋭くて感動する。ベートーヴェンのコンチェルトのほうは、このヘーエンリーダーという

ピアニストがとても楽しそうに弾いており、自然体で楽しめる演奏。ヘーエンリーダ‐はアクセントをつけるとき、体全体を使って

アクセントをかけにいくように見えるのが印象的。三楽章冒頭の弾き方も面白い。アンコールの曲は初めて聴く曲だった。

 

 そんなこんなでDVDを購入して、夜は僕の恩師である塚原先生に、高校の同級生のS氏と一緒にお寿司へ連れていって頂いた。

塚原先生から学んだものは、音楽で言えばアナリーゼの技術と書法の技術、つまり「設問の分析」と「文章の構成」の技術だ。

物知りなだけでは全く駄目で、「設問や資料をどれだけ深く読み込んで出題者の意図や狙いを汲み取れるか」、そして

「何を盛り込み、何を切り捨て、いかに論理的で見通しの良い文章を書くか」という技術が東大の日本史(世界史でもそうだ)で高得点を

取るには要求されている。今になって分かることだが、設問の深い分析と見晴らしの良い文章構成に必須なのは「冷静さ」だと思う。

緊張や興奮で舞い上がってしまっては、設問や資料をじっくりと読み解くことなんか出来ないだろうし、ましてや厳しい指定字数の

枠内で構造の明確な文章を書くことなど不可能になってしまうだろう。時間制限と一回きりの緊張感の中でじっくりと設問や資料、

そして自分の書いた文章と向かい合うのは至難の技であって、そのためには訓練して癖をつけることしかない。だからこそ浪人中、

塚原先生のもとで徹底的にこれを鍛えて頂いたのは大きかった。この技術・能力は、今になっても小論を書いたり、報告書を書いたり

する際にとても役立っている。論述の勉強はしっかりやれば大学でも役立つので、時間と労力を注ぐ価値ありだと思います。

 

 話が論述の話になってしまったが、とにかく、先生と久しぶりに話すのは本当に楽しかった。

駿台に所属していた頃からもう三年近く経つのに、今でもこうして誘っていただけるのは幸せなことだなと思う。

めちゃくちゃ美味しいお寿司と美味しい日本酒、ごちそうさまでした。ありがとうございます。

 

伊豆サーフ・トリップ

 

 二泊三日で伊豆へサーフィンに行ってきた。

「クラス旅行の下見」という名目であるが、まあ実際にはクラスの友達数人を波乗りに拉致したようなものだ。

前日までの天気予報では三日とも絶望的に雨。天気図を見ても雨雲の動きの図を見ても、雨か曇り以外あり得ないような天気で、

「しまったなあ・・・」と思いつつ旅行の準備をしていた。

当日になってもスッキリしない天気。いくら良い波が来ていても、雨の海辺はちょっと鬱になってしまう。

抜けるような青空と、降り注ぐ太陽、それから澄んだ海。日焼けしようが何だろうが、海はこんなふうに晴れていた方が楽しい。

もはや自分の晴れ男パワーが前線を動かすことを信じるしかない。同行した友達のT氏も晴れ男だそうで、

「二人でフュージョンして前線の位置を動かそう」などと壮大な話をしつつ出発した。

 

 そしていざ海辺についてみると、なんと青空が見えていた!晴れ男パワー×2恐るべし。

友達にカレント(離岸流)の注意をしたあと、ひととおりボディボードを教える。初日の波は厚めで、腰から腹ぐらい。

厚めの波の場合、テイクオフのタイミングを上手く取らないと乗り遅れてしまうこともあり、みんな最初は少し苦労した様子だったが、

一時間ちょっと練習しているうちにガンガン乗れるようになってきていた。水温が冷たく、長く入っていると寒さを感じるぐらいにも

関わらず、みんな一度入ると帰ってこない。波に押されるあの感覚とスピード感にすっかりハマってくれたようで嬉しかった。

休憩時間にもビーチバレーやビーチフラッグで盛り上がる。海は本当に楽しい。

 

 夕方になるとビーチから人がほとんど消えたので、ショートボードを持ち出して浜の端のほうで一人サーフィンをしてきた。

端の方には岩が突き出ている所があって結構危険なのだが、岩の直線上遥か沖からカットバックを繰り返して、僕が波待ちを

していたところまでやってくるサーファーがいた。実にスムーズでスピードに乗った動きで、いかにもローカルの人っぽい

雰囲気を出している。波待ちをしていると近くの人と仲良くなったりすることがあるのだが、このローカルらしき人も

近くに来た時に話しかけてくれたので、この機会を利用して伊豆おすすめのポイントや食事場所、温泉などを教えてもらった。

こういう場所ではローカルの人の話が一番参考になる。感謝感謝。

 

 食後は宿泊先のガーデンヴィラ白浜へチェックイン。ここのオーナーは大学の大先輩で、温厚で親切、そしてダンディな方だ。

荷物を部屋に置いて海の見えるテラスでバーベキューを開催。限界まで体力を使って乾いた喉に、良く冷えたビールが気持ちいい。

帆立、サザエをはじめとする魚介から大量の肉まであって、満足感MAXの夕食であった。夕食を済ましてからはプール横に

併設されたバーでトロピカルカクテルを頂きつつ少し泳いだあと、貸切露天風呂(暗くてホラーだったが、絶景だった。)を満喫。

そして日が変わるころには全員爆睡。

 

 二日目、強烈な日差しを感じて目が覚める。カーテンを開けてみると、昨日よりずっと綺麗な空と、エメラルドグリーンの海が

眼下に広がっていた。水平線と地平線が溶けるようなこの光景に感動しつつ、慌てて海に出る。

波のサイズは胸、時々それ以上。かなり大きい。サイズに加えて掘れた波で、しかもダンパー(一気に崩れる)という初心者には

ハードなコンディション。まずゲティングアウトが大変で、上手くポジションを取らないと波に巻かれて底に叩きつけられる。

これは結構大変だなあ・・・と思ってみんなの方を振り返ると、もうとっくにみんな海の中に入っていた。怖いもの知らずである。

案の定、最初のうちは波に巻かれたり盛大にパーリング(ボードの先を海面に突き刺してしまいひっくり返ること)していたようだが、

しばらくするとこのヤヤコシイ波に乗れていた。すごい。乗るのは大変だしアクションも入れづらいが、パワーがある波ではあるから、

一度乗ってしまえば物凄いスピード感を味わえる。しかも面が切り立っているから、波のトップから一気に落ちて加速する感覚も

楽しむ事が出来る。失敗すると巻かれて苦しい思いをするけれど、成功すれば波を支配したような気分になれる。

まさに波との闘いであった。ダンパーの波を綺麗にショートボードで乗りこなせるような技術は持っていないので、今日は僕も

ボディボードをメインにして、友達と同じ場所に波待ちしてこの波と格闘した。

 

 宿に帰って夕食。今度はバーベキューではなく、通常料理なのだが、この御飯がまた絶品だった。

舟盛りの刺身に始まり、荒汁からハーブ焼きから生クリームグラタン、身があり得ない程巨大な海老フライや締めの杏仁豆腐に至るまで

どれもが美味しくて、様々な国の料理の良いとこ取りをした気分になった。食後に自由に飲めるようになっていた珈琲も、おそらく

コロンビアとブラジルベースの豆を使用したもので、優しく上品な味。部屋に戻って一服したあと、昨日と同じくプール横の

バーで酒を飲みつつ、デッキチェアーで星空と月を見ながら爆睡。虫に刺されまくったが、このような自然の中にいるとそれが

不思議と気にならない。「よお蚊。お前も大変だなあ。ちょっと血でも吸ってけよ。」みたいな、鷹揚な気持ちになれる。

貸切露天風呂では男どもで海を眺めつつ就職の話を真剣にし、部屋に戻ってからは怪談(?)や恋愛話、最後には生命倫理の

話にまで広がって夜が更けていった。

 

 三日目は曇り。昨日までとは打って変わって、波の調子が良くない。強いオンショア(海風)が吹いていて、セットもピークも

あったものではないチョッピーなコンディション。水温も冷たく、あまり波乗りには向いていない。ということで、浜辺で色々写真を

撮った。中でも、かっぱの処刑写真と、「ターミネイター」と題するショートコントのような動画は、確実に人を笑わせるであろう傑作だ。

ここにアップしたいぐらいなのだが、ターミネイターに扮したT氏の人間としての尊厳に配慮して自重することにしよう。

 

 海から早めに上がって、帰り道にある「禅の湯」に向かう。初日にローカルの人から教えてもらった天然温泉だ。

露天風呂の温度がバグっていたり、岩盤浴の熱気が日焼けに刺さって悶絶したりしたが、サーフィン後の温泉は本当に気持ちいい。

温泉の効能かデトックスの効果か分からないけれど、とにかく身体が軽くなる。たっぷり一時間ちょっと入った後、途中にあった

御飯屋さんで鰻や蕎麦を食べたあと帰路につく。天気や宿にも恵まれ、気の置けない友人たちと豪遊した三日間であった。