全部聴き終えた。これは尋常ではない演奏だ。こんな「幻想」、はじめて聞いた。
二楽章のワルツの官能的な重さとリズム、三楽章の孤独、一転して四楽章から五楽章の狂気。
「ワルプルギスの夜の夢」のラスト、トロンボーンを置いて行くような圧倒的加速。有無を言わさぬ迫力だけど、クリュイタンスは
冷静に音楽を作っている。テンポをあれほど動かしても格調高い。最後には夢に包まれたような高揚感が残る。
メインプログラムの「幻想」だけではなく、アンコールの二曲も凄い演奏だ。
一曲目の「展覧会の絵」の「古い城」は、途方もなく寂しい。アルトサックスのすすり泣くような音。
二曲目の「アルルの女」の「ファランドール」の堂々たる風格。終わりに近づくにつれ加速する音の塊が、闇に打ちあがる花火のように
目の前で弾ける。このCDに収められた演奏、1964年5月10日の東京ライブは全てが奇跡的な素晴らしさだ。
名盤と呼ばれて長く愛されるのも当然だろう。このライブが行われたとき僕はまだ存在すらしていなかったが、
実際に聴きに行っていたならば、終演後、しばらく放心状態になっていたと思う。
音楽が「分かる」とか「分からない」ではなく、この演奏は音の内容をダイレクトに「伝える」。
何度聞いても本当に壮絶な演奏だ。久し振りに、聴き終わって動けなくなるCDに出会った。