大晦日ということで、2013年を振り返ってみようと思います。
<音楽>
・レッスンにて
1月:ワーグナー「マイスタージンガー 前奏曲」
2月:チャイコフスキー「弦楽セレナーデ」、モーツァルト「交響曲第三十五番 ハフナー」
3月:ドヴォルザーク「交響曲第九番 新世界より」(2月&3月&4月)
4月:ムソルグスキー/ラヴェル「展覧会の絵」組曲(二回目)、ヴィラ=ロボス「ブラジル風バッハ九番」
5月:ヴィラ=ロボス「ブラジル風バッハ九番」、モーツァルト「交響曲第三十九番」、ドビュッシー:「小組曲」
6月:モーツァルト「交響曲第四十番」(6月&7月)
7月:モーツァルト「交響曲第四十番」(6月&7月)、シベリウス「交響詩 フィンランディア」(二回目)
8月:チャイコフスキー「交響曲第五番」、ニコライ「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲
9月:ベートーヴェン「交響曲第五番」(二回目)
10月:ベートーヴェン「交響曲第九番」、指揮法教程練習題No.1-No.8(三回目)
11月:ベートーヴェン「交響曲第九番」、ムソルグスキー&ラヴェル「展覧会の絵」組曲(三回目)
12月:ベートーヴェン「交響曲第九番」、ヴェルディ「運命の力」序曲、シュトラウス「こうもり」序曲(二回目)
指揮を学びはじめてから、最も苦しんだ一年間でした。考える事や見えるものが増えていくのに棒の解像度が追いつかない。
頭の中で鳴っている響き(音ではなく)と、現実に鳴る響きとが音色やニュアンスの面で全く一致しない。
モーツァルトの40番をやっているときは精神的に本当に苦しい日々で、あれほど音楽が色褪せて見えた時期はありません。
と同時に、ベートーヴェンの「交響曲第九番」を通しで見て頂いたときに感じた、一楽章や三楽章での集中と感情はこれまでに経験したことのないものでした。
ポジティブなものもネガティブなものも含めて、新しい感情と技術とを知った一年間であり、教えさせて頂くという行為を通じて基礎を改めて確認する一年間でもありました。
おそらくこの一年で僕の指揮は大きく変わっただろう、という実感があります。そして一つ進化した手応えと共に、自らの未熟さを強く強く実感しています。
遡及性と訴求性 — この先にある膨大な広がりに目眩がする思いですが、掴んだものをしっかり活かせるように来年も更に勉強して行きたい。
・本番など
1月10日、学生指揮者の方への指揮のアドバイスのため、お茶の水管弦楽団の室内楽コンサート「茶弦」リハーサルにお招き頂きました。(グリーグ「ホルベアの時代」)
3月22日、アンサンブル・コモドさまの東京公演を指揮させて頂きました。100人を超える大オーケストラと、ホルスト「惑星」抜粋やサウンド・オブ・ミュージックメドレーなどを
演奏致しました。アンコールははプッチーニの「菊の花」とYou raise me upです。
3月23日 Strudel Hornistenさまの第六回演奏会にて、スパーク「オリエント急行」ムソルグスキー「展覧会の絵」などを指揮させて頂きました。
4月〜 師の助手として、指揮法教室の初級クラスの指導に携わらせて頂く事になりました。(2013年中に4人の方を指導させて頂きました。)
4月〜 丸ノ内KITTE内の博物館IMTにおける連続室内楽企画のプロデューサーを務めさせて頂くことになりました。(バロック&アルゼンチン・タンゴ→ベネズエラ音楽→ケルト音楽→ブラジル音楽)
7月24日・26日・29日 足立区の中学校の吹奏楽部さまよりご依頼を頂き、三回にわたってコンクールのための吹奏楽指導を行いました。
8月21-23日 アンサンブル・コモドさまの東北遠征公演を二公演指揮させて頂きました。ビゼー「カルメン」組曲やシュトラウスの「春の声」などが中心です。
11月30日 コマバ・メモリアル・チェロオーケストラ第三回演奏会を、丸ノ内の博物館にて指揮致しました。
総勢15名のチェリストとクレンゲル「讃歌」やロジャース「全ての山に登れ」、ヴィラ=ロボス「ブラジル風バッハ一番&五番」など。
12月23日 お茶の水管弦楽団弦セクション演奏会「茶弦」リハーサルにお招き頂き、学生指揮者の方の指揮指導をさせて頂きました。(レスピーギ「第三組曲」)
12月25日 クロワゼ・サロン・オーケストラと足立区の中学校の音楽鑑賞教室で演奏致しました。(芥川也寸志「トリプティーク」、アンダーソン「クリスマス・フェスティヴァル」など)
12月27日 武蔵野音大の方々からお声がけ頂き、千葉県の老人ホームにてレスピーギ「第三組曲」やタルティーニのトランペット協奏曲、そして書き下ろしの現代曲などを指揮致しました。
アンコールで演奏した「ふるさと」の大合唱を指揮しながら、聴きに来て下さった方々のお言葉を頂きながら、人の心を揺さぶり、つたないながらも多少なりとも感動を与えられる
音楽-指揮というこの行為に関わる事ができて本当に良かった、と思いました。一年の最後の本番で根源的な喜びを味わうことが出来て背筋が正される思いでした。
様々なオーケストラさまから沢山の本番を頂いた一年間でした。指揮する機会を下さった方々に、また、一緒に演奏して下さった方々に心から感謝致します。
本番は来年となりますが、フィリピンでのUUUオーケストラ&セブ・フィルハーモニックオーケストラとの合同コンサート・ツアーのリハーサルも2013年度から始まっています。
プロコフィエフのピアノ協奏曲第三番やベートーヴェンの交響曲第五番、それから真島俊夫さんの「三つのジャポニスム」など。
それから、同じく来年の本番であるオーケストラ・アフェットゥオーソさんとのリハーサルも。こちらはオール・シベリウス・プログラムになります。
来年にはドミナント室内管の第二回コンサートも開催予定。一時期はどうしようか悩んでいましたが、やろうよという声をメンバーから沢山頂いて、動き出す事にしました。
腕前だけではなく人間的にも美学的にも気の会う仲間たちと楽しく音楽を作って行くという創設時の原点を見直しながら、今後にも繋がるように運営体制を整えたいと思っています。
今のところ来年の本番は、1月(東京)、2月(フィリピン)、3月(福島、兵庫)、5月(東京)、8月(東京、宮城)、11月(東京)、12月(東京)で頂いております。
一つ一つを丁寧に、そして常にフットワーク軽く過ごそうと思いますので、指揮が必要な際にはこれからもどうぞお声がけ下さい。
曲について。この一年間で勉強して最も衝撃を受けたのは、やはりベートーヴェンの九番とシベリウスの七番です。
ベートーヴェンの九番については何度もブログでも記事にしたのでここでは書かない事にして、これで師匠にベートーヴェンの全交響曲をレッスンして頂いた事になります。
シベリウスの七番は、僕が理解できていることはほんの僅かに過ぎないとはいえ、張り巡らされた論理と情感の凄まじさに絶句しました。
スコアを読むときには美しく織られた織物を解きほぐしていくような感覚。指揮するときには美しい模様の入った糸を織りあげて一つの構造物を作って行くような感覚。
特に夏頃だったと思いますが、寝ても覚めてもシベリウスの七番のことしか考えられない日が幾度もありました。
<学問とその周辺>
3月 フランス語で執筆した卒業論文La naissance d’une nouvelle sensibilité à la lumière artificielle : Le rôle des Expositions universelles de Paris 1855-1900にて学士(教養)取得。
大学院試験合格。地域文化研究学科フランス分科より、総合文化研究科の比較文学・比較文化コースに進学。
4月 東京大学大学院に所属する人文科学系の修士一名のみ(日本全国の修士で採用は合計七人だったと伺いました)を対象とした返還不要の奨学金である
松尾金蔵記念奨学基金に採用される。この奨学基金を頂く事がなければこの一年間を過ごす事は出来ませんでした。
4月〜寺田寅彦先生に師事。寺田先生にご指導頂くためにこのコースに進学したので、希望通りご指導頂けることになって本当に嬉しかった!
4月〜2013年度夏学期「情報」TAを担当致しました。
5月 立花隆「東京大学新図書館」 トークイベントにて、助手を務めました。(東大TVにて一般公開中)
5月 ミシェル・ドゥギーのLa Pietà Baudelaireを原典購読する小林康夫先生の講義にて、マラルメの「人工光」の扱いをボードレールと比較しながら発表させて頂きました。
ドゥギーはもちろん、ボードレールの「悪の華」や「パリの憂鬱」に原書でたくさん触れることが出来たのは僥倖でした。
2013年上半期の自分の頭の中にはいつもボードレールの存在があって、どこに行くにも鞄に『悪の華』を持ち歩いていました。
6月 小林康夫ゼミ(「絵画の哲学」)にて19世紀から20世紀初頭にかけての光の展開を絵画の問題と絡めながら発表させて頂きました。
7月 カイユボットの「床削り」と「パリの通り、雨」をめぐる論考を執筆致しました。
さきほどのボードレールと平行して、上半期の僕の頭の中を締めていた画家はカイユボットとドガだったと思います。
8月 京都の出版社の友人より、「19世紀フランスにおける光の文化史」というテーマでWeb連載のお話を頂きました。現在鋭意執筆中です。
10月「週刊読書人」11月8日号紙上にて、小宮正安さまの御新刊『音楽史 影の仕掛人』(春秋社)の書評を書かせて頂きました。
10月〜 東大比較文学会2013年度「展覧会・カタログ評院生委員会」副委員長を務めさせて頂くことになりました。
11月 立花隆先生のご著書投げ込みデザインを担当させて頂きました。これ以上沢山の部数印刷されるものを制作させて頂くことはこの先滅多に無いでしょう…(笑)
12月 小林康夫ゼミにて、ロベール・ドローネーの「カーディフ・チーム」をめぐる分析を発表させて頂きました。
12月まで 寺田寅彦ゼミ(フランス語で進行)にて、ファンタスマゴリー(魔術幻灯)の問題を集中的に勉強しました。下半期はここから「幻想」という問題を考えていて、
その繋がりで象徴主義に関する文献を読むことが多かったように思います。
研究を進めて行く中で、19世紀末の光のありかたを考える上でファンタスマゴリー以来綿々と続く「幻想」の思想、それから
19世紀末に高まる「装飾」という概念の交差が決定的に重要であることに気付かされました。
修士論文はこの装飾と幻想という思想を切り口に、光(と音)を考えるものになる予感がしています。
そしておそらく、ジョルジュ・ベルジュがキーパーソンになるはず…。
読んだ本を全て書き上げることはしませんが、とくに衝撃を受けたのは河本真理さんの『切断の時代 20世紀におけるコラージュの美学と歴史』や、
デボラ・シルヴァーマン『アール・ヌーヴォー フランス世紀末と装飾芸術の思想』、Simone Delattre, Les douze heures noiresなど。
でもやっぱり一番響いたのはボードレールの諸々に出会えたことだったかもしれません。
ダンテを読めるようになりたくて、少しだけイタリア語を勉強し始めたことも書き添えておきます。
あとは不定期になってしまっていたボウリングをまた定期的に再開するようにしました。
音楽をやる上でも日々を過ごす上でも、僕にとってボウリングは座禅のようなもの。ぶれない呼吸や強靭な精神で脱力して立つこと。
それは指揮とも共通するもので、(今年は行けなかったけれども、サーフィンとも関係してきます)それぞれをうまく呼応させて高めて行きたいと思います。
今年は最高でも276までしか出せなかったのは悔しい限りで、ひとえに練習不足によることが明らかですから
来年こそは人生七回目のパーフェクトを達成すべく、動作の精度とレーン・リーディングの速度を向上させたいと企んでいます。
そういうわけで、この一年間は周りの方々に温かく支えて頂いて、好きなことに好きなだけ打ち込むことが出来た時間でした。
非常に充実していた一方で反省も限りなく、もっと餓えていなければならなかったと思う時間が沢山あるのも事実です。
来年は指揮活動でフィリピンと関西と東京と東北を行き来することになりますし、同時に夏ごろからは修士論文を形にしていかねばなりません。
頂いた機会を一つ一つ大切にして、来年も果敢に生きて行きたいと思います。そうすれば思いもよらなかった未来が開けることを信じて…。
長くなってしまいました。今年何度も引いた『悪の華』最後の一節を改めて引用して、ひとまず一年の終止(そして出発!)と致します。
Plonger au fond du gouffre, Enfer ou Ciel, qu’importe ? 裂け目の奥へ飛び込んで、地獄も天国も知ったことか
Au fond de l’Inconnu pour trouver du nouveau ! 新しきものを探し出すため、いざ未知の底へ!
2013年、忘れ難い日々をありがとうございました。2014年もどうぞよろしくお願い致します。