November 2009
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寒波

 

 11月3日。文化の日だ。そして今年の文化の日はとても寒かった。

家のドアを開けた瞬間、「キーン!」と音が聞こえてきそうなほど冷え切った空気が流れ込んでくる。冬の匂いがする。

寒さに少し辟易しながらも、季節の変化が面白くて、どこかワクワクしながら外へ出た。といっても、特に行くアテがあるわけではない。

だが、僕にとって文化の日は特別な日なので、何はともあれ街に出かける。秋冬用のスーツを一着買おうと思っていたことを思い出し

小田急線に乗って新宿へ向かう。車内にはクリスマス特集などという広告がかかっており、もうそんな時期なんだなと驚かされた。

 

 新宿はたくさんの人で賑わっていた。

車道は閉鎖されて歩行者天国になっており、人々が無秩序に行き交う。すれ違うたびに様々な香水の匂いがする。

Diorのファーレンハイト、Nicosのスカルプチャー、ブルガリのソワール…寒さのせいか、少し重めの香りが多い。

名前まで分からなかったがバニラとリンゴの混じったような香りに何度も遭遇した。ニナリッチだろうか。

歩いてゆく人のその少し後ろを、その人の香りが影のようについてゆく。ある人の香りとある人の香りが交差する。

「香りの影」の交わりは新しい香りを一瞬生み出し、それはたちまち風に散らされる。偶然の芸術が雑踏に生まれる。

 

 沢山の人々が至る所に口を開けた店へ吸い込まれてゆく。いつもなら静かなはずの宝石屋は着飾ったカップルで混雑しているし、

マツモトキヨシはいつもの20%増しぐらいの音量とスピードで「タイムセールですよ!時間限定ですよ!!」を連呼している。

道のど真ん中で小さな子供が思いっきり転んで泣くのを見て、ホスト風の兄ちゃん軍団がすれ違いざまに目を細めて笑う。

ちょっと幸せな光景だ。

 

 人の流れを避けるように裏道に入り、スーツを見て回ったり画材屋でキャンバスや油絵具を見たりするうち、すぐ日が暮れる。

日が落ちると寒さが染みる。寒い。これは飲まずにはいられない。ということで落語で有名な末広亭の近くに入って一杯だけ飲む。

そして外へ出ると、明るいネオンに彩られた新宿の街を見下ろすかのように、ネオンよりずっと明るく透き通った光を注ぐ満月が

空にあった。この光の美しさは他のどんな光をしても真似できない。その綺麗さに、雑踏の中で空を見上げて息を飲む。

2009年の文化の日は、満月の光と冬の寒さが染み渡る日になった。

 

 珍しく日記なのは理由がある。

先日、六本木の国立新美術館にハプスブルク展と日展を見に行ったのでその感想をここにあげようと思って20行ぐらい書いていた

のだが、パソコンの機嫌がよろしくなかったようで、眼を離したスキに全消去されてしまっていた。かなり細かく書いていたのに・・・。

まあそういうわけでたまには日記である。また書き直す気になったら展覧会の記録を書きたい。

特に日展で見つけた二枚の凄い絵についてはいつか必ず書き直したいと思う。これは本当に凄かった。

 

 なお、本日は竹田青嗣『現代思想の冒険』(ちくま学芸文庫,1992)を読了。現代思想の展開や概要がコンパクトに纏められており

アウトラインを復習するには読みやすい本だ。現代思想の入門書としても使いやすいだろう。

原典からの引用が多々あるが、それが誰の訳によるものなのかがはっきり書かれていない(はず)点だけがやや残念。

ちなみにこの文庫本、表紙がデニム地みたいで面白いです。

 

2 comments to 寒波

  • 画材屋でキャンバスや油絵具って・・

    お前まさか絵書くんじゃないだろうな??

    あのさ、前言ってたような気するんやけど買うかどうか迷ってる本があったら買ったほうがいいかな?
    2万円くらいで経済的には結構痛いけどそれ以上に得るものはあるよなきっと

  • 木許 裕介

    >聖氏
    もちろん俺は書きませんよ。(ていうか書けません)
    本は悩んだら買うべき。これは立花さんから学んだ鉄則です。

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