自分にとって贅沢とは何であるか。
美味しいお酒、美味しい珈琲、素敵な音楽に包まれること…考え始めると無数にあるけれど、
「ちょっと高級なシャンプーを買って帰る」ことの贅沢感は異常だと再認識した。
一日リハーサルで疲れたあと、まだ時間も早い夜にシャワーを浴びて髪をわしゃわしゃしながら
「うーむ…このシャンプー…神か…いやギャグではなく…」とひとり呟く、そんな夕暮れ。
それはささやかな時間でありながら、とても贅沢で幸せな気持ちにさせてくれる。
ささやかな時間、ささやかな幸せという言葉を綴っていて、ある文章を唐突に思い出す。
中学三年生のときに触れて以来、ずっと大好きな文章だ。
それは原田宗典の『優しくって 少しばか』というエッセイ。「神は小さきところに宿る」という言葉を変奏した手紙の一節。
僕は神さまはあまり信じませんが、この場合の神は愛に置き換えられるような気がします。
ごく些細なこと……例えば階段を下りる時に君の足元から 目を逸らさずにいること。眠る前に肩が出ないように毛布を掛け直してあげること。
悲しそうな顔をしていたら理由は聞かずにそばにいてあげること。そんな所に、愛は宿っていると思えるのです……だからそんな所から、ぼくは君と始めたいと思います。
あれから十年。
読み返してみても、やっぱりいいな。