昨夜ドビュッシーを振ってみて、もう本当に言葉にならないほど幸せな気持ちになった。
風を操っているような感覚。夢の中でもずっと「小舟にて」のフルートが水面に反射していた。
ドビュッシーを勉強するのは楽しい。
学問上専門にしているフランスものだから、ということもあるけれど、ポエジー、としか表現の出来ないものに強烈に惹き付けられる。
「小組曲」の第一曲目「小舟にて」第二曲目「行列」にインスピレーションを与えたとされるヴェルレーヌの詩集を参照すれば、「小舟にて」の詩の美しさに感動する。
Cependant la lune se lève/Et l’esquif en sa course brève/File gaîment sur l’eau qui rêve.
小舟は昼間に走らない。描かれているのは、月明かりの中、金星が映る、空より暗い水面をゆく小舟。
第三曲目「メヌエット」はヴェルレーヌではなく、同名のバンヴィルの詩集が踏まえられていて
バンヴィルの詩を用いてドビュッシーがかつて書いた歌曲「艶なる宴」のメロディを転用したもの。
Partout dans l’air court un parfum subtil.(「空にあるものは全て、幽かな香りを漂わせる」)
というドビュッシーの世界を凝縮したようなバンヴィルの一節はこのメロディに当たるのかと納得。
そして「艶なる宴」について考えて行くと、やはりヴァトーの絵にまで行き着く。
音楽から詩へ、詩から絵画へ。比較芸術の研究と指揮の勉強が重なりあう幸せな瞬間…。
そういうヴェルレーヌの空間を過ごし、今日は朝から授業でミシェル・ドゥギーのボードレール論を原典購読する授業。
もちろんボードレールを(「悪の華」を)折りに触れて参照しながら読むわけだけど、そこにはヴェルレーヌと全然違う世界がある。
駒場をもうすぐ去られる大先生のインスピレーションに満ちた「読み」が凄すぎて、鳥肌が立った。
pietàとpieuse、「悪の華」のあの「無名」の100番目の詩の21行目から、ミケランジェロのピエタ像とのコントラストを用いて
「逆転したピエタ」と表現してしまう、あの煌めくような読みを、他の誰が出来るだろうか!
豊かなイマージュの世界に音楽と学問で遊べる幸せ。今年も充実したゴールデンウィークを過ごしている。