丸谷才一さんが亡くなられたと知ってショックを受けている。享年87歳。
丸谷才一、というお名前はポーの『モルグ街の殺人事件』で小学生の頃から記憶にあったし、
大学に入ってからはジョイスの『ユリシーズ』や『若き芸術家の肖像』の翻訳でお世話になった。
そして何よりも、『いろんな色のインクで』という書評集が大好きだった。
「書評というのは、ひとりの本好きが、本好きの友だちに出す手紙みたいなものです。…(中略)…
おや、この人はいい文章を書く、考え方がしっかりしている、洒落たことをいう、
こういう人のすすめる本なら一つ読んでみようかという気にさせる。それがほんものの書評家なんですね」
(丸谷才一『いろんな色のインクで』より)
この書評集で僕はマンゾーニの『いいなづけ』を知ったし、そこから平川祐弘さんという翻訳者を知った。
その後に『いいなづけ』がジュリーニの愛読書であったことが分かると共に、平川さんの新訳『神曲』と『ダンテ 「神曲」講義』に触れて感動した。
(そして、平川さんが僕が大学で所属している教養学部フランス学科の第一期生でいらっしゃったことも知った。)
その教養溢れる文章で本から本へと鮮やかに橋を架け、果てしない文字の世界へと僕を連れ出して下さった一人が丸谷さんだった。
心よりご冥福をお祈り致します。