「しあわせの雨傘」という映画を見た。
主演は「シェルブールの雨傘」で知られるカトリーヌ・ドヌーヴ。
シナリオ自体は単純な女性賛美なのだが、その描かれ方が非常に面白い。浮気を繰り返す夫は自分の妻(カトリーヌ・ドヌーヴ)だけは
貞淑な社長夫人、いわば「入れ物」だと疑わずに傍若無人な振る舞いを繰り返すが、その実、妻のほうが一枚も二枚も浮気に対して上手であるくだりなど、
思わずニヤリとしてしまう。その事実を聞いて呆気にとられる夫に向けて「長年の夫婦でも話題は尽きないものね。」と言い放って去るシーンの痛快さ!
そして妻の息子役を務めるジェレミー・レニエがとてもいい。髪型、髭、服装。すべてが似合っていて
こんな格好を出来たらいいなあと憧れてしまう。シェイプされたツイードのジャケットが素敵過ぎる。
「金にも名誉にも地位にも興味がない。興味があるもの?絵、美術史、カンディンスキー。」とクールに呟くところなど最高だった。
印象的だったのは作中に挿入される歌。この歌詞がまた素敵なのだ。
「最後のグラスを下げにくる給仕、私たちは死ぬほどぐったりして迎える。
朝の光が怖い、今日はどんな天気だろう。
雨の中を歩こう、人生を一巡りしよう。二人きりで、雨の中を。」
ああ、この朝の光が怖い感覚、そして同時に今日の天気が気になる感覚。凄く良く分かるし、何度も経験しているな、と思った。
ドタバタ続きのこの映画はこんな一言で締めくくられる。
C’est beau, la vie.「人生は美しい。」
モーツァルトのコシ・ファン・トゥッテを思い出さずにはいられない。
人生は何があるか分からないもので、そして何とでもなる。意志を持ち、一度きりの生を目一杯楽しもうとする限り。