June 2011
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プッチーニ「蝶々夫人」@新国立劇場

 

立花ゼミのOBとなってもうゼミにもあまり顔を出していなかったのですが、

いつの間にか「木許オペラ」なる企画を後輩が立ててくれていました。

彼は、彼が一年生のときに僕がリヒャルト・シュトラウスのオペラ「影のない女」に誘った後輩で

それ以来オペラの魅力にハマってしまったそう。そこで上級生になったいま、オペラの楽しさを

後輩たちに伝えるべく、新しくゼミに入った一年生を誘って、僕と一緒にオペラを見に行く会を企画してくれました。

 

当日、新国立劇場に向かうとなんと12人もの後輩たちが参加して下さっていて、本当にびっくり!

みんなどこか緊張した面持ちで、スーツの着こなしも一年生らしいものでしたが、かえってそれが微笑ましく

「彼・彼女たちは今から楽しんでくれるかな。終わったときどんな顔をしてこの劇場を出るのかな。」なんて

考えてしまいます。そして、簡単な解説と聞き方だけを手短に説明したあとは、みなS席(学生の特権で5000円!)へ。

おそらくはじめて来たであろう劇場の壮麗な雰囲気に圧倒される一年生たちを見ていると何だか幸せになってしまい、

開演前にそっと一人で一杯だけ飲んでしまいました。

 

あっという間に一幕、二幕。そして三幕。

舞台セットはほとんど動かず、固定したままのもの。そのかわり照明と影に工夫が見られました。

あの照明の使い方は凄く好きです。白い壁に映し出されるシルエットが何とも雄弁に物語ります。

音楽としては、一幕ではやや前に前にと突っ込む感じとフレーズの終わりの処理があっさりしているのが

少し気になった(もう少し間が欲しい!)のですが、二幕以降は迫力でぐいぐいとシナリオを進めていたように思います。

そして改めて、プッチーニはやはり旋律に溢れた作曲家だなあと感動しました。

 

一幕最後、有名な「愛の二重唱」で「小さな幸せでいいから。」と蝶々夫人が

歌い上げる場面では思わずウルッと来てしまいましたし、幸せに満ちたその音楽の中に

数年後に迫る悲劇を案じさせる、呪いの動機(ボンゾが登場したときと同じフレーズ)が一瞬顔をのぞかせる

ところにはゾッとします。そして三幕の「私から全てを奪うのね!」と内から黒い感情を溢れさせる

場面の音楽なんて、憎しみと絶望と諦めの折り混ざった、暗い情念の渦巻く旋律で、

もうプッチーニの天才と言うほか無いようなものでしょう。

 

結末は非常に残酷なもので、蝶々夫人の自害した瞬間に子供が相対してバンッと電気が落ちる

瞬間には思わず涙を零しました。結末を知っているのに泣いてしまう。結末はずっと前から暗示されているのだけど、

なかなかその結末はやってこず(音楽と演出がそれを先延ばしに先延ばしにし、時間を自由に伸縮させるのです)

それだけに最後のカタルシスは壮絶なものがあります。「ああ、いい時間を過ごしたなあ」としみじみと思いました。

 

劇場から出てみると、後輩の女の子は目を赤くしていましたし、

感想を話したくて仕方ないという様子の子もたくさん。みんな次の公演の演目を

楽しみにしているようで、パンフレットを見て「これはどんな話なんですか。」と次々に

聞いてきてくれます。「なんだ、オペラって楽しいじゃないか!」と思ってくれたなら

僕としてはこれ以上嬉しいことは無く、これからもゼミのみんなで、あるいは友達や大切な人と

誘い合わせて、歌と音楽に満ちたこの時間を楽しんでもらえたらいいなあと願うばかりです。

企画してくれた植田君、そして一緒に来てくださった皆さん、どうもありがとうございました。

 

駆け出しながら音楽に関わるものとして僕はこれからもこのオペラという総合芸術を

応援していきたいと思います。そして、いつかは自分も指揮できるようになれたらいいな。

 

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