ついに齋藤指揮法教程の練習曲が全て終わった。
最終曲の「美しく青きドナウ」は、細かいニュアンスを表現するのに苦しめられたが、読み込むにつれ、練習曲で学んできたこと全てが
一本の糸で繋がるような感覚を覚えた。ドナウの最終試験では、振り終わってから先生が「よくここまでやったね。95点の演奏だ。」と
言って下さって、心の底から嬉しかった。相手がプロでもめったにそんな点数は出さないとのことなので、相当にうまく振れたのだろう。
確かに、振りながら気持ちが乗っていくのを感じたし、曲のイメージも浮かんだ。そして細部にまで自分の意志が行き届いているのを
感じた。音の無い時間=「間」を十分に楽しみながら振ることが出来たように思う。春の陽気に覆われたこの日に、この「美しく青きドナウ」
を振ることが出来たのは本当に幸せだった。
だが、当然気になるのはあとの5点。
「あとの5点はどうやったらいいんですか?」と先生に聞いてみたら、
「演奏に《完全》はないから、100点なんかはないし、誰も100点の演奏は出来ない。でも、出来るだけ100点に近付けるために
努力しなくてはならない。そしてその道筋は言葉で表現できない。これから色々な曲を振っていく中で自分で見つけなさい。
そして時には僕から見て盗め。」との答えが返ってきて、感動した。
指揮という芸術に、そして音楽に終わりはない。
指揮法教程をマスターするうちに指揮の技術が体に叩き込まれただけでなく、音楽の見方もずいぶん変わった。
どんな細かい部分も音楽という全体を構成している。全体はディテールに宿っている。そして音楽は建築に似ていて、
一つ一つの音符が組み合わさって巨大な建物を形作っているのだ。そういうことを頭で考えながら、同時に心で感じなければならない。
そんなふうに、技術だけでなく「音楽」を教えてくれた。
指揮の師匠に出会ってから6ヶ月。寝る暇を惜しんで練習した甲斐あって、相当に早いスピードで進んでいる。
次の6か月、僕はどの曲に出会い、どの曲をどんなふうに振るのだろう。今から楽しみで仕方ない。