買い物帰りなのだろう、手にはみんなどこかの紙袋を下げている。足早に街を歩いていくが、その顔はどこか楽しそうだ。
そんな様子を見ながら、十二月がもう終わりに近づいていることを実感する。
人ごみを避けて駒場キャンパスの中にある喫茶店へ入った。三面がガラス張りになっているこの喫茶店は、午後の西日の光を
吸収してとても暖かい。ちょっと眠くなるのが難点だが、この暖かさはとても居心地がよい。
二年の冬学期になって、学校のある日はだいたい毎日ここへ足を運んでいる。珈琲一杯200円。それで買ってきたばかりの本を
一冊読み切るのが日課のようになってきた。本だけでなく、課題を読み進めたり、文章を書いたり
レッスンに備えて楽譜を読み込んだりと、一人になってやりたいことをやるときには大抵ここを使う。
そのせいか店員さんたちにすっかり顔を覚えられてしまったようだ。と同時に、僕も
いつもいる常連さん(学生から教授、近所の子供連れのお母さんまで)の顔ぶれを覚えてきた。
ここに来ると自分の生活にリタルダンドをかけることが出来る。
若さにあふれる駒場でゆっくりと落ち着けるのはこの喫茶店ぐらいかもしれない。
駒場は、やはり若い。
専門課程に入った三・四年生は本郷へ大抵移ってしまうため、駒場にいるのは一年生・二年生が
残留する。大学院に行かないとしてもあと二年は確実に駒場に残ることになる。
それはそれで悪くないのだが、ちょっと取り残されたような気がしないでもない。
一年生は毎年毎年入れ替わる。
僕が四年になった時、新たに入ってくる一年生はきっと五・六歳ぐらい下になるのだろう。
僕には四歳下の弟がいるけれど、弟より下の世代となるといまいち想像できない。
未知の領域である。今はまだ、食堂にふらっと足を運んでも、そこで楽しそうに話す一年生たちを
見てクラスの友達と食堂で延々話していた一年生のころを 思い出して懐かしくなるだけだが、
四年なんかになると、食堂で楽しそうに話す一年生たちの若々しさに微妙な居心地の悪さを
感じてしまうことになるのだろうか。
ふうっと溜息をついて、どんどんと自分が十代から離れていくことを感じながら、
もう一杯珈琲をお代わりして長居することにした。
十二月が過ぎてゆく。また次の一年がやってくる。