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音韻論と構造主義 その2「弁別的素性 caractère distinctif 」

 

さて、先日の続きから書きます。

音韻論と音素とは何なのかを概説し、音素を弁別的素性に注目して分類する、ということでしたね。

その弁別的素性にはいくつかの種類があります。『ソシュール一般言語学講義』によれば、音素を還元する図式において、

考慮すべき要素は以下の四つだとされています。

 

1.呼気 expiration 

 ⇒一様で恒常的(義務的)な要素。どんな音素を作り出すときでも、息をしないわけにはいきませんものね。

 

2.声 voix

 ⇒一様で選択的な要素。とりわけ、声門で作られる音としての喉頭原音laryngéを指していると考えてよいでしょう。

  声は音素によってあったりなかったりする要素ですね。たとえばpやfは喉を震わさず出すことができます。

 

3.鼻音性nasalité

 ⇒鼻腔 canal nasalを開くこと。一様で選択的な要素。鼻腔は使っても使わなくても音が出せます。

 

4.口腔の調音articulatin buccale

 ⇒多様で恒常的(義務的)な要素。我々はある音を出すとき、舌など、口の中の器官をしかるべき 位置に移動させて

  その音を出します。音によって口のなかの器官の位置は異なるので多様、しかし口のなかの器官は必ずどこかに位置せねば

  ならないので、恒常的(義務的)な要素だと言えます。

 

さて、この4つの分類の中で最も重要で基本的なものはどれでしょうか。感覚的に4番目が重要な気がしませんか?

そうです、口の中の器官の位置こそが音素を最も大きく左右しているのです。従って、ここで、4の要素をベースにして、

そこに2.3(1は一様で恒常的要素なので除外)の強弱程度を重ねれば音素の分類が出来るという発想に至ります。

そこで、まず4についてさらに細かく見てみます。ソシュールによれば、口腔の調音は結局のところ口腔の閉鎖程度

(要するに、どれぐらい口を開けるか)という尺度に関係づけられます。ということは、まずは口腔の閉鎖程度を分類し、

そこに上乗せされる変化として声と鼻音性の要素の有無を考えていけば良いのです。

表にしやすいように、「声」があることを+声、「鼻音性」があることを+鼻音性と表記しましょう。

 

【調音:開口度0=口の完全閉鎖】

 

               +鼻音性

     p,k,tなど   既知言語になし

+声  b,g,dなど    m,nなど       ↓         ↓    有声閉鎖音   鼻音有声閉鎖音

 

テキスト形式では表が書きづらいですね。見づらくてすみません。まあとりあえずこの表を見ながら実験してみましょう。

p(フランス語では「ぺ」)を発音します。口をほとんど閉じた状態でも「ぺ」は言えますね?このとき、喉は震えていないはずです。

そこで、同じ口の状態のまま、b(フランス語では、「ベー」)を発音してみてください。喉が震えたでしょう?

これが口をほとんど閉じた状態で喉を震わせて出す音、つまり有声閉鎖音です。

同じようにして見ていけば鼻音有声閉鎖音なんてのも何のことか簡単に理解できると思います。

このような表の形式を作り、あとはどんどんと口を開けてゆき、口の開き具合に応じて音素を表に振り分けていくだけです。

つまり,

 

【調音:開口度1】

【調音:開口度2】

【調音:開口度3】

【調音:開口度4】

【調音:開口度5】

 

というふうに。(それぞれの表をすべて書こうかと思いましたが、煩雑になるのでやめておきます。)

 

レヴィ・ストロースによれば、『構造人類学』に La naissance de la phonologie a bouleversé cette situation. 

およびLa phonologie ne peut manquer de jouer, vis-à-vis des sciences sociales…とあったように

音素や音韻論が社会科学に革新的な役割を果たしたことが説明されていました。音素や音韻論がどのように社会科学を変えたか、

そしてそれがどのように「構造主義」の確立に繋がっていったのか。構造主義、とりわけレヴィ・ストロースによる「人類学」においては

数学における「群論」の影響も頭に置かなければならないでしょうが、ひとまず、構造主義における「構造」というタームが、

「他の一切が変化するときでも、変化せずにあるもの」と定義出来ることを考えたとき、そこに音素や音韻論との関連を

明確に見ることが出来るでしょう。

 

具体的な関連に関してはAntholopologie Structuraleを読み進めていくうちに、改めて纏めてみたいと思います。

並行してRoman Jakobsonの著作もしっかり読んでみようとamazonでヤーコブソンの『一般言語学』をチェックしましたが、

5670円という値段にひるんでカートに入れるまでには至りませんでした。一冊5000円を超えると簡単には買えませんね。

(どうでもいいことですが、『一般言語学』の装丁の色遣いが今日着ていたTシャツと酷似していて微妙な既視感を覚えました。)

ヤーコブソンの本は神田の古本屋に置いてありそうな気もするので、今週中にでも神田ツアーに出かけたいと思います。

駒場祭では22日の立花ゼミ「二十歳の君へ」企画だけでなく、翌日にある弁論部主催の北岡伸一教授の講演会と討論会に

代表として出ることになりそうなので、「人間の安全保障」に関する書籍も神田で買い込んでおくつもりでいます。

とはいっても具体的には何を買うか決めていないので、「人間の安全保障」に関するおススメの本がありましたらぜひ教えて下さい。

 

今日は夕方まで空がとても綺麗でしたしフルートの調子も良かったので、良い週末を過ごすことが出来ました。

明日から寒くなるそうなので(東北では雪が降る可能性があるらしいです。北海道は予想最低気温がマイナスになっていました。)

皆さんも体調には気をつけてお過ごしください。「二十歳の君への宿題」、まだ投稿されていない方はお早めにどうぞ。