ちょうどこれぐらいの時期だった。
母や弟、そして犬に見送られながら、父の運転する車に自転車から本まで積み込んで、夜中に京都から東京へと車を飛ばした。
途中で雨が降ってきてフロントガラスが雨に滲み、高速道路のオレンジの灯が車の中に柔らかく広がる。
拡散して揺れる光を眠気の一向にやってこない目で見つめながら、無理やり積み込んだ自転車が後部座席でカタカタと音を立てるのを聞きながら、
「ああ、僕はこれから大学生として一人で暮らしていくんだな。」とはじめて意識した。
高速道路の標識に表示される「東京まであと何km」の表示がどんどん減っていく。次第に夜が白んでゆく。車は止まらない。時間も止まらない。
今まで生きていた世界とは全く違う世界に自分が向かっているような気分がして、朝が訪れるのが何だか怖かった。
「精一杯楽しめよ。じゃあな。」
下宿につき、荷物を運び込み、父はいつも通りの口調で一言残して去っていった。
部屋にぽつんと取り残された僕は何をするでもなく、部屋の隅に座ってぼんやりと窓の外を眺めていた。
真新しい部屋の匂いが、わけもなく憎らしかった。