久し振りに晴れた一日、五月祭の話や本の話やら書きたい事は沢山あるのだが、この映画について書かないわけにはいかない。
名作の誉れ高き、ジュゼッペ・トルナトーレ監督による「Nuovo Cinema Paradiso (New Cinema Paradise)」をついに観た。
なんだこれは。疑いようもなく、今まで見てきた映画で最高の映画だ。最後のシーン(完全版に入っている「あの」シーン)だけでなく
至るところで泣かされた。涙だけでなく、体が何度も震えた。主人公が彼女の家の下で待っている時のシーンなど、一切台詞無しに
そのショットだけで金縛りにあったような感動を与えてくれた。暗い青、壁の苔、落ちる影、そして遠くにあがる花火。
奇跡のように美しいショットだ。あげていけばキリがないぐらい素晴らしいショットやシーンがこの映画にはある。
冒頭の波の音とともに暗闇に風が吹き込んでくるようなショットに始まり、雷の鳴る中で回り続ける映写機をバックにして
彼女と会うショット、錨を前にして海で話すショット、「夏はいつ終わる?映画なら簡単だ。フェイドアウトして嵐が来れば終わる。」
と語ったあと豪雨の中で眼前に彼女が突然入ってくるショット、五時を確認しようとする時の時計の出し方、
映画とリアルの素早い交錯、電車が離れていく時にアルフレードだけ視線を外している様、どれも上手すぎる!
再会するシーンで編みかけのマフラーがほどけていく構図、明滅する光を互いの顔に落としつつ話すショット、最初の葬儀のシーンと
最後の葬儀のシーンとでのトトの成長を映しつつ周囲の人や環境の変化をさり気なく見せる対比の鮮やかさ、そして最後のあの
フィルムを見るときの少年に戻ったような様子などは天才的としか言いようがない!!青ざめた光と暗闇の使い方が神がかっている。
ショットだけでなく、胸に刺さるようなセリフも沢山ある。
「人生はお前が見た映画とは違う。人生はもっと困難なものだ。行け。前途洋洋だ。」
「もう私は年寄りだ。もうお前と話をしない。お前の噂を聞きたい。」
「炎はいつか灰になる。大恋愛もいくつかするかもしれない。だが、彼の将来は一つだ。」というアルフレードの台詞、
「あたしたちに将来は無いわ。あるのは過去だけよ。あれ以上のフィナーレは無い。」というエレナの台詞、どれも忘れる事が出来ない。
それとともに音楽の何と上手いことか。使われている音楽はさほど多くないが、メインテーマを場面に応じて微妙に変奏し、旋律楽器を
変え、リズムを崩し、何度も何度も繰り返す。繰り返しが多いだけに、途中で突然入ってくるピアノのjazzyな和音連打を用いた
音楽が頭に残る。そして、この特徴的な音楽を、最後のシーンでなんとメインテーマに重ねてくる!凄いセンス!!
熱中して観て、呆然とし、そしてこれを書いていたらもう朝の5時だ。そろそろ寝なければならない。本当に時間の経つのは早い。
最後になるが、この映画に流れるテーマも「時間」に他ならないと思う。人の成長、恋愛、生死、周囲や環境の変化、技術の進歩、
そして時間を操る芸術としての映画!どれも時間を背負うことで成り立つものだ。本映画は「時間」を軸にして沢山のものを描いている。
この映画に出会えたことを、心から幸せに思う。