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「OCEAN TRIBE」を観た。

 

 ウィル・ガイガー監督による「OCEAN TRIBE」を観た。

いやー、いいですよこれ。本当にいい。どんなラストシーンが用意されてるか分かってるのに、やっぱりラストで泣ける。

五月祭前日だというのに朝三時まで食い入るようにして観てしまいました。

「ブラームスの弾けるサーファーは彼一人だ」なんて五人を紹介していく冒頭のシーンもいいし、

病院から誘拐してくるシーンもスリリングでたまらない。高校生のころみたいにはちゃめちゃな悪ふざけ。

馬鹿みたいに明るい五人だけれども、それぞれにそれぞれの悩みを抱えているし、死を目の前にした人間とそうでない人間の

間にはどうやっても埋まらない距離があるのを感じさせてくれる。

「病院での六年より、海での一分の方がいい」と叫ぶボブを誰が止めれるだろうか。

 

 サーフィンのシーンも実に効果的に使われている。

 「水に浮かんでいると体が無限に広がっていく気がした。明けの明星を見ていると、空より高いところに登っていくようだった。

まるで空と海に抱かれているようだ。」という言葉は、波乗りをやったことがある人ならきっと理解できる言葉だろう。

サーフボードの上に寝て夕暮れの波間に浮かんでいると、空と海に挟まれて自分がいったいどこにいるのか分からなくなる。

自然や世界と肌で繋がる感覚、海を媒介に遥か彼方まで触れているような感覚、その一方で波に浮かぶ自分の小ささを感じる。

この映画からは、そういった自然への畏怖、海の大きさ、命のちっぽけさ、そんなものが良く伝わってくる。

訳には時々首を傾げる所がある(「ウィリアム・ブレイクの詩だ」と話しているところを「有名な詩だ」と訳していたり)ものの

セリフ回しも楽しいし、所作明け方のサーフ・シーンでイルカと遭遇するところの音楽をはじめ音楽も高水準。

揺れるようなカメラワークも波間に漂うような雰囲気に満ちていて良い。

 

 映画を観ていて、高二の時に友達と一緒に波乗りに行った時のことを思い出した。

青春十八切符で乗り継ぎ、海の最寄駅に着いたのが夜の12時前。駅から海までは山を二つ越えてバスで30分程度。

そんな距離を、真っ暗な中、ボードを背負って10人ぐらいで歩いた。夜中、ライトもあまり無い山道だったから、途中で

何度も車に轢かれそうになって、何とか山道を越えた時には冷たい汗でびっしょりになっていたのを覚えている。

浜辺に着いたのが朝3時。辺りはまだ真っ暗で、波が打ち寄せる音しか聞こえない。10人ぐらいで浜辺にシートをひいて、

他愛無い話をしながら、波の音に耳を澄ませて目を閉じた。波の音が近寄ってくるような気がして、慌てて起き上がって歩数で

波打ち際までの距離をみんなで交代して測り、その結果潮が満ちてきていることが判明して焦ったりしているうちに、

水平線の向こうがゆっくりと黒からブルー・ブラックに染まってくる。黒からブルーブラックへ、そして次第に明るい空色へ。

何重にも層のかかった青色と、どこまでも広がる海の黒。あのグラデーションと空にかかった月の綺麗さは一生忘れないだろう。

(ちなみに、航空幕僚長講演会のパンフレットに使った写真はこのとき撮ったものである。)

 

映画のレビューのつもりが違う話になってしまったが、とにかく、この映画は自然と生死について考えさせてくれる名作である。

自然との共生を説いた100の本を読むより、本映画を見たり波乗りをしたりする方が自然への畏怖を持つことに繋がるに違いない。