崇高なものと俗なものの同居するモンマルトルを歩き倒し、疲れたらカフェへ。
フランスは至る所にカフェがあるので、休憩場所には苦労しません。滞在二日目にしてすでに、さっとカフェに入ってコーヒーを
注文したり、パン屋でクロワッサンをしゅぱっと買うのに抵抗がなくなりました。ひっそりした路地に佇むパン屋さんのパンが美味しすぎて
感動します。これがクロワッサンか!という感じです。カフェでは昼からお酒も飲めるので、ふらりとワイン を飲みに入ったりする楽しみも
覚えてしまいました。最高です。
自分の脚で街を覚える。迷うことで裏通りを知り、道を聞くことで言語に触れる。その通りの香りを頭に焼き付ける。
見る文字全てを口の中でこっそり呟きながら、そういうふうにパリの街を歩き回っていました。
歩くたびに秋の冷たい風が吹きつけ、風を切って歩く感覚があります。パリは、ただ歩くだけで本当に楽しい街です。
歩くうちに様々なことに気が付きます。たとえば、コンコルド広場へ向かう道で。
パリの街は、狭い空間から一気に広い空間に出る快感があります。パサージュから広場へ。建物やアーケードが突然消えて、
膨大な広さの場所と空が一気に眼前に広がる感覚はまるで、「自分」という存在の位置がふっと移動するような気分にさせられます。
うまく言葉にはなりませんが、狭い空間を歩いていたときの自分は、「世界を歩いているんだぞ。」という気分だったのに、
こうした広場に出た瞬間に、「自分は世界の端っこに間借りしているだけにすぎないんだ。」という気分になる。
自分と言う存在の占める大きさが相対的に変わる。でも、それは無力感とは違って、むしろ快感なのです。
夜10時にルーブル宮殿の広場に出た時もそうでした。狭い入口を通ると一気に広がる、馬鹿みたいに広い空間。
息を呑んで、次の瞬間なぜか分からないけど笑いが込み上げて来ました。走りだしたくなるような広さと、それを囲む建物の壮麗さ。
そして、頭上の闇に鮮やかに浮かんだ月の美しさ。広場には人がほとんどいなかったので、闇の中、広場の石畳に寝転んで、
月と空間を見上げてしばらくじっと過ごしていました。この光景は一生忘れられないだろうな、と思いながら。
帰りには、月が浮かぶセーヌ川に佇みました。セーヌ川にかかった橋を渡りながら、板の隙間から足元を見ると、水面に光が
反射してキラキラと光っているのが見えます。ただそれだけなのに夜の空気の冷たさと相まって、涙が出るぐらい感動してしまいました。
そして上機嫌のまま、カフェでボルドーを二杯飲んで、幸せな気分に浸ってホテルに帰るのでした。