迷いが晴れた。
チャイコフスキーの交響曲第五番の一楽章を振り終わって、「何があったんだ。」と師匠が言葉を下さる。
何かがあったわけではないけれど、ここ三ヶ月で一番気持ちが乗った。
と同時に、揺れ動いていたものがピタリと腰を据えて、「大きな流れ」としか言い様のない全体が見えたのだ。
こういう気分になるときはいつも、スコアの見え方が全く違う。ある程度暗譜しているスコアとはいえ、
一度目を落とした瞬間に全体が飛び込んでくる。それもアーティキュレーションの細かな部分まで。
それはスコアだけではない。なぜか今いる部屋の隅まで詳細にズームイン可能な錯覚すら覚える。
ずっと先まで広々と見通せる気分のまま、もう一人の自分が上から自分を見下ろすような気分のまま、
理性のもとで感情に突き動かされるようにして棒を振る。
ウェーバーの「魔弾の射手」序曲を振って以来遠ざかっていたあの感覚が久しぶりに戻って来た。
ただただ、楽しかった。
偶然の産物ではなくて、暗闇を抜けた先に少しだけ到達したのだという確信がある。
一つの暗闇を抜けてしばらくするとまた次の暗闇がやってくるかもしれない。
それでも今の気持ちを忘れないようにしようと思う。
音楽は厳しくも、その本質はこんなに楽しかったのだ。