しばらく音を聴きたくもなく、棒を振りたくもなかった。
少し覚えたはずの歌を失い、心は全く揺れず、呆然として立ちすくんだ。
文字通り真っ暗な中にいた。
作品のどこに立てば良いのか分からない。
どれを信じ、誰と音楽をして、何を求めれば良いのか分からない。
難しいことを考えるのは止めて楽譜を読もうとするけれど、楽譜は以前のように立ち上がらず、語りかけてくることもなく、
ただ石化した記号となって静寂に横たわる。
三ヶ月ぐらいそういう暗闇の中で踞っていました。
二人きりの時間にそう伝えると、師は柔らかに笑いながら言う。
「君はこれから何十年も棒を振らなければならないのだから、そういう時期があっても良いんだよ。」
大きな掌に包むようなこの言葉を僕は一生忘れまい。
さも当たり前のように下さった「何十年も」という言葉を、そして、悩んでいることを大らかに許して下さるその言葉を。
ずっと『悪の華』の最後の二行が響き続ける。
Plonger au fond du gouffre, Enfer ou Ciel, qu’importe ?
Au fond de l’Inconnu pour trouver du nouveau !
戻ることも止めることもしない。自分で自分の道を切り開くしかない。
傷つきながらも、いまを潜り抜けた先に何かが見えることを切望して、
これが何十年のうちの大切な一部となることを信じて歩く。
もういちど信じることを思い出そう。それは脱出ではなく、「出発」のために。