February 2012
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鮮やかな静寂

 

春の気配が少しずつ忍び寄る二月の夜。

ひとりで街を歩いていたら、辛棄疾の「青玉案 元夕」という漢詩を思い出した。

 

東風夜放花千樹

更吹落星如雨

寳馬雕車香滿路

風簫聲動

玉壺光轉

一夜魚龍舞

蛾兒雪柳黃金縷,

笑語盈盈暗香去。

衆裏尋他千百度,

驀然回首

那人却在

燈火闌珊處

 

「春風が夜に限りなき光の花を咲かす。風はさらに吹き散らす。夜空の星を雨のように。」と灯籠を描写した冒頭、

「白粉の香りが道に溢れる」と続け、「密かな香りとともに去って行った多くの美女のうち、或る一人を追いかけて何度無く大通りを行き交う」

という心の揺れ動きが示されたあと、「でも見失ってしまった。がっかりして振り向く。するとその人は静かにそこに佇んでいた。灯火の届きにくい、目立たぬ暗闇に。」

 

スビト・ピアノ。こうして陰影と静寂へと一気に情景を変える。

暗闇に息を呑む。遠ざかって行った白粉の香りが、途端に鼻元に立ちこめる。

風の肌触り、揺れる灯籠の光、聞こえる喧噪、流れてくる女性の香り…。

想像力に溢れ、五感を刺激する。何という世界の豊かさ。その鮮やかな静寂に絶句する。