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『カルメン』@新国立劇場

 

今月はカルメンを観てきました。

カルメンを知らない人は多分いないはず。あの「闘牛士の歌」を始め、どこかで一度は聞いたことがある音楽が全編に溢れています。

シナリオ的には典型的なファム・ファタル(運命の女)系のものであり、「愛 L’amour 」と「自由 La liberté」の二点を巡って

二人の男(ホセとエスカミニョーラ)と二人の女(カルメンとミカエラ)の交差する感情を描いた悲劇だといえるでしょう。

 

はじめてオペラを観に行く方にもおすすめできる分かりやすいシナリオ。そして、そこにつけられたビゼーの曲が本当に天才的なのです。

指揮者見習いとしては、いつか指揮してみたい!と思うオペラの一つ。明るいメロディにも明るさだけでなくどこか官能的な艶があり、

その一方で金管楽器の ff などは破滅的なものを予感させます。一幕の最初、弦がトレモロで入ってきてバスが「ボン・ボン!」と

低音の楔を打ち込むあたりはいつまでも忘れられない音楽ですし、二幕の最後、La liberté ! と何度も歌われる場面は本当に

何度聞いても素敵だなあと感じます。また、フルート吹きとしては三幕の前奏曲のソロも外せないところ。

挙げるとキリがありませんので全ては書きませんが、フルスコアも取り寄せて、とにかく相当に読みこんでから実演に臨みました。

 

今回はゼミ生およびフランス科の友達、私的な友達などに何人も声をかけていたので、十人ぐらいで一緒に会場へ。

アカデミックプランの恩恵を受けて今回もS席で鑑賞させてもらいました。照明が落ちて、あの前奏曲がどんなテンポで流れてくるのか

楽しみにしながら、スコアを頭に思い浮かべます。そしてやや間をとって始まった前奏曲。

・・・うーん、正直言ってイマイチです。早すぎる。カルロス・クライバーの演奏のようにゾクゾクするスリル満点の早さではなく、

ムラヴィンスキーのようにキレ味の良い早さでもなく、テンポがただ前のめりに早いだけで、しかも指揮が直線的すぎ&脱力が不十分

ゆえに、フレーズの語尾が窮屈になっていてなんとも聴きづらい。残響が次のフレーズに被さってしまっているし、休符の間にも

緊張感がない。そんなふうにとても平坦な演奏で、特に管楽器の方々は歌いづらそうにされていたこともあり、「これは大丈夫だろうか」と

かなり不安を覚えてしまいました。

 

残念ながら、一幕の子供たちの合唱(Chorus of Street Boys)では、音楽をやっていない人でも気付くほどオケと合唱がずれてしまい

ヒヤっとしましたし、工女たちの合唱(Chorus of Cigarette Girls)では、オケが歌に合わせるのが精いっぱいという感じで、La fumée

というフランス語ならではの響きを生かした空気感のある掛け合いは、あまり感じ取れませんでした。(合唱自体は結構良かったのに)

Allegro moderatoになってカルメンが入ってくるところの弦のffも平坦なffで、「カルメンがやったんだわ!」という緊迫感や切迫感、もっと

言えば狂気のようなものが一切伝わってこない。指揮者はこの部分に思い入れがないのではないか、どんどん進めて行きたいだけでは

ないのか、と首をかしげたくなります。(もちろんそんなことは無いと思いますが・・・。)カルメンの一幕での聞かせどころであるハバネラも

細かいテンポの揺らしがかえって不自然で、音色もついていっておらず、率直に言ってあまり面白くない演奏でした。面白くない、

というよりはむしろ違和感が残るといった方が正しいかもしれません。カルメンはねっとり歌おうとするのにオケの方はさっさと行こうと

するから、ぎくしゃくした感じが終始抜けていなかったように感じます。

 

一幕はそんなふうに、やや残念な演奏が全体として目立ちました。

指揮を学んでいると、指揮者の動きや振りひとつひとつが演奏者に与える効果がある程度分かります。

今回の指揮者は明らかに振り過ぎていました。緩やかで美しいフレーズを直線的な叩きや跳ね上げで振っていては、美しい音は

出るべくもありません。跳ね上げた時に手首をぐにゃぐにゃさせて調整しようとしていましたが、そんなことをやっても楽器は歌えない。

かえって分かりづらくなるだけです。指揮がいかに大切か、ということを目の当たりにさせて頂き、いい勉強になったと思っています。

 

ともあれ、ニ幕中盤~三幕になるとだいぶん落ち着いてきて、要所要所で迫力が出てきた感じを受けました。

今回いちばん凄かったのはミカエラ役の浜田理恵さん!ミカエラは立場的に微妙なキャラなのですが、ものすごい存在感を

放つ歌唱を聞かせて下さいました。この時ばかりはオケの音が明らかに変わっていましたね。

一人の演奏が全体の音を一気にがらっと変えてしまうというのは何度も見てもすごい。音だけでなく、会場の温度まで変わるのです。

 

演出はニ幕の薄暗い中に光がまたたくセットは良かったですね。あとカルメンの動きがセクシーすぎてビビりました。

あそこまでやるかという感じ。でもカルメンというファム・ファタルにはあれぐらいで丁度いいのかもしれませんね。楽しませてもらいました。

 

一幕の音楽の他にもう一点だけ残念なことがあって、それは観客の方々の拍手です。幕が閉まり始めたらとりあえず拍手する、という

お客さんが何人かいらっしゃって、余韻がかき消されてしまい、大変残念な思いを何度もしました。とくにラスト。カルメンが死んでホセが

Carmen adorée!と叫んだ後、ffでのTuttiから始まる三小節がホセの人生に、カルメンの人生に、そしてエスカミーリョの愛に

別れを告げて劇的に終わるところ。そのtuttiの部分の一小節前で幕が閉まり始めることもあって、なんとそこで拍手が入ってしまいました。

これはもはやテロです。最後が台無しになってしまいます。お願いだからあそこは我慢してほしかった・・・。

 

何だか僕には珍しく、ネガティブなレビューが多くなってしまいましたが、カルメンというオペラの楽しさを再認識することになりました。

とくに以前見た時はフランス語なんて全く分からない状態だったのですが、フランス科に進学してフランス語に日々接している

(といっても僕はドイツ語⇒フランス科なので、フランス語歴はまだ一年もありません)と、かなりの部分の単語が聴きとれて

嬉しい思いをしました。一緒に行ったフランス科の同期の友達も「けっこう余裕で聞ける。楽しすぎる。」と言っていたので、やはり

語学に触れておくと、こういう時に幸せな思いが出来るのです。連れて行ったゼミの後輩たちも語学へのモチベーションが湧いたことと

思います。みなさんがんばってくださいね。

 

なお、この「一緒にオペラを見に行く会」はこれからも大体毎月開催する予定です。

立花ゼミだけに限らず、フランス科の友達やクラスの友達など、僕の知り合いには積極的に声をかけていきます。みなさん一度オペラに

行くと抵抗が無くなる方が多いようなので、まず誰かに誘われて足を運んでみるのが大切だろうと思いますし、違うコミュニティ・学年の人

たちが顔を合わせるこうした機会は、お互いにとっていい刺激になるはずです。休憩時間にワインを呑みながら、今見たばかりの

カルメンの話を、今日会ったばかりの所属も学年も違う人とする。ちょっと文化的な時間を経験している気がしてきます。

学生割引の恩恵に預かれる間に、これからもみんなで沢山の演目を見に行きましょう!

 

 

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