冬休みもあと数日。地元にいられる時間は僅かしか残されていません。
というわけで、帰省中に必ずやっておきたかったことの一つを終えてきました。ボウリングの師との再戦です。
電話をしてボウリング場で待ち合わせ、夏と変わらずお元気なお姿でフロアの向こう側から飄々と歩いてくる師匠はもう75歳。
師匠にボウリングの面白さと奥深さを教わってからもう6年が経ちます。月日の経つ早さに驚かされながら、がっちりと握手をして
レーンへ向かいました。
夏休みに勝負したときは僅差で僕が勝ちましたが、師匠はその年齢もさることながら、使っているボールがラウンドワンの
キャンペーンボール一球のみ(他のボールは近くのレーンに入った若者にあげたらしい。そんな気前の良さには本当に憧れます。)
という状況だったので、僅差では勝ったことになりません。そこで、今回は自分に二つの制限を課して勝負に臨みました。
まず、投げてよい球は二球のみに制限。練習投球の様子から、Second Dimension と Black Widow Nasty の二球に絞りました。
そしてアベレージにして30ピン以上差をつけること。師匠はどんなに転んでも180アベは叩いてくるので、僕は最低でも210アベを
超えねばなりません。この二つの条件を満たしてはじめて「勝った」と思おうと決めました。
そして試合開始。正月で沢山のお客さんが投げているからか、レーンがかなり難しい状態に荒れていることに気づきます。
外早中遅の上、左右差が微妙についています。極端な左右差ならボールを変えたりして対応できるのですが微妙な差となると
細かく調整していくしかありません。しかも外早なので外に向けて出し過ぎると即ガター。これはかなり集中して投げないと、とても
210アベどころではありません。Black Widow Nastyを15枚ぐらいからちょっとだけ外に向けて投げ、ピン前の切れこみを利用して
倒すラインを選択しながら、目一杯集中して投げました。
師匠はと見ると、スピードを落として僕と同じ15枚目ちょい出しラインを選択しています。それを見て、このラインはかつて師匠から直々
に教わった、師の最も得意とするラインだったことを思い出しました。投げ方はあの頃から随分変わりましたが、今でも僕のライン取りは
ほとんど師匠譲りのもののようです。アプローチに立って構えながら、心の中で師匠に感謝しました。
微妙なアジャストも成功して、六ゲーム終わってみればアベレージ228となかなかのスコア。対して師匠は194。
精一杯のことはやりました。最終ゲームで師匠が、「もうこれからは勝てないな。」と笑顔でそっと呟かれたのが耳に残って離れません。
心から嬉しかったし、同時に少し寂しかった。師匠を超えるときがついに来たのかもしれません。
でも、師匠からはまだまだ学ぶべきところがありました。
とりわけ、僕がいま集中的に取り組んでいる「静」の部分。「静」と「動」に注目して師匠のフォームをじっくりと後ろから見てみました。
びっくりしました。師匠の構えは「ビタッ!」と音が出るように静止しています。止まっているのは時間にして僅か数秒。
ですがその静止の中に、「これから起こるであろう動き」が完全に含まれているのが感じられます。
「構えただけでストライクが出そうな気配を放っているなあ。」とボウリングを始めたての頃に何となく思ったのも今は良くわかります。
一瞬の呼吸。スラックスの裾の揺れすら完全に動きを止めた一瞬の静けさ。この背中に憧れて僕はボウリングをはじめたのでした。
「静」だけでなく、レーンを読む早さと緻密極まりないコントロールはまだまだ師匠の足元にも及びません。
師匠は6ゲーム通じて2-10のスプリットを3 回残したのですが、なんとその3回とも取ってしまいました!
一度だけならまだしも、三回とも全て取るなんて芸当はトッププロにも難しいことでしょう。レーンを読み切っていて、さらにそこから導いた
わずか数枚の幅に確実に投げられるコントロールがあってはじめて可能になる技ですね。肘を入れたハイレブの投げ方で投げていると
多少ポケットからずれても倒れてくれるので、ついつい精密なコントロールやレーンの読みが甘くなりがちですが、本当は僕らのような
ハイレブ型の投法で投げる人こそ、コントロールとレーンの読みを学ばねばなりません。ストローカーのコントロールと経験からくる
レーンリーディングの早さを基本として、そこにプラスアルファで高速・高回転の球を多様なアングルで投げれるようにすることが
最強ではないでしょうか。師から教わったレーンリーディングのコツを、東京に帰ってまた投げ込みながら、自分のものにしていきたいと
思います。
夏休みには今よりも腕を磨いて帰省します。師匠もお元気で。そう伝えて固い握手を交わし、帰路へと向かいます。
夏ならまだ明るかった午後四時。冬の午後四時は、夕焼けと日没がグラデーションになって空を彩っており、心地よく疲れた体に
冷たい風が沁みました。