17.基本は教師で意地が悪くて結構いい人
X 先生はご自身をどういった存在だと思われていますか? つまり難しいんですけど、最初にご専門はとお伺いした時、専門はフランス現代思想であり文学であり、でも興味の方向は色んなことにあり、それで考えていることは哲学のことであったり思想であったり。では、その、枠決めすることはお嫌いだとは思いますが、あえて枠決めをすると自分は何なんだろうとお思いますか? 哲学者ということですか?内田 いやいや、基本は教師だよ。今の自分の様々の特性を規定しているのは大学教師という今の職業だよ。
X では、それを今年1年で辞めてしまうと、アイデンティティとかが…
内田 どうなっちゃうんだろうね。アイデンティティの危機だよ。その後も武道の先生をやるから教師ということには変わりないんだけどさ。
L 先生の本を読んでいると哲学の話と武道の話と能の話と映画の話が、一つになっててすごいなと思います。やっぱり一つのスキームじゃあ捉えられない大きなものを捉えているというか…
内田 さっきも言ったけど、全部詰め込んでいるからね。腐らないように順番に出して、なるべく使うというか出来るだけ使い回しをする。一度でも経験したことはなるべく使う。どんなにつまらない映画を見て、ああつまらなかったなあって思っても、このつまらなさというのはここまでつまらないとある種の哲学的知見をもたらすんだよ。なぜ人はここまでつまらない映画を作れるんだろうって考えているとけっこう面白くなってくる。僕は無駄な時間がない人なんですよ。絶対無駄なことをしているという時間がない。全部ネタ。だから、僕はここで質問されているけれど、こっちは最近の学生さんはこういうことを考えているんだ、こういうことを心配がって不安に思っているんだということをネタとして仕込んで、いずれ使うわけですよ(笑)
X 最近の興味はどういった方向ですか?
内田 そうだね、経済だね。経済の話を今書いているところですね。次出る本はメディア論ですね。
L 先生は全く興味のない分野とかはあるのですか?
内田 何だろうなあ…全く興味のない分野はないですね。
X 意識化されないということですか? そういうわけではなくて…
内田 たいていの分野は興味ある。およそ人間の営みで私の興味を引かないものはない。
X 先生はブログを長いことおやりになったり、ツイッターをやったりiPadを買ったり時代の先端のものをやられていますね。
内田 ガジェットね。すごい好きなの、ミーハーなの。やっぱり一番大きいのは僕が理数系じゃないというかメカにすごく弱いこと。メカに強い人って理解しようとするでしょう。それで完全に我がものにするというところまで頑張ってやっちゃう。そうすると愛着が出来ちゃうんだよね。そうすると次々と新しいバージョンが出てきた時にさ、古いものにしがみついて新しいものに行こうとしないんだよね。僕みたいに全く分からないけどバンザイっていうのはさ、「設定して」とか「買ってきて」っていう人間で次々とキャベツを買うようにガジェットを買い替えるから、何のこだわりもない。物神がない、フェティッシュがない、車やメカとか、時計とか電子的ガジェットとかに。それを物神化して愛着持つ人っているじゃない。でもそういうのは何にもない。
X 特にこれをというのもないですか?
内田 うん、iPadって言うけど、すぐ忘れちゃうの(笑)。物に対する愛着がないの。だからコレクションをしたこともないの、一回もない。
L iPadを買おうと思ったのは興味があったからですか?
内田 何これ何これっていうね。その、人の話を聴いて理解するのがおっくうなのでとりあえず現場に行っちゃったり本人に会っちゃったりする。iPadって言われた時も、知ってるよそれは、でも読むのが面倒なのでとりあえずブツを渡せ、ってなる。それでああなるほどね、分かった分かったって言うの。やっぱり現物が大事なのね。現物、現場、本が基本なわけね。
X それはその、研究の一次資料でも同じようなのですか?
内田 そうね、レヴィナスなんて会わなきゃ分からないもの。あれやっぱしね、会わなかったら随分理解が届かなかったと思うな。会えば、ああこういう人なのかなるほどなるほどってなる。それまで分からなかった人が会っただけで分かるということはあるものね。
L 僕たちまさに今回ね、内田先生に出会って…
内田 会えば分かるでしょう。どういう風に(僕のことを)思っていたの? よく言われるのはでかいですね、ってこと。みんなもっと小さい人だと思っていたみたい。
L 本の中では、自分は意地が悪いとか…
内田 意地は悪いよ。
L どんないじめ方をするのか…
(一同笑)
内田 よく言われるんだよ。けっこういい人ですね、って。
(一同笑)
内田 けっこういい人なんだよ…こんなところでよろしいでしょうか。遠いところからご苦労様です。