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内田樹さんに会ってきた


6.「楽しい」と「鬱陶しい」

V それは先ほどの、人とのネットワークという話とも関係するのですか。

内田 そうだなあ、関係はもちろんありますよ。

V 最近、先生の言うところの「飛び込み」で能を始めたのですが、そうしたらクラスに能にとても詳しい人がいることが分かったり、その詳しい人から「大学の教授のこれ読んでみろ」とか言われたりするようになって。そうやってネットワークが広がっていくのが楽しいと思うのですけれど、先の会社の話もありましたけれど、ネットワークが広がるというのは、どこまでが楽しくてどこからがもう嫌だ、ってなっちゃうのですかね。

内田 難しいね。本当に難しいところで、おっしゃるとおり、よくわからないんですよ。広がっていって、あるところまでは広がってどんどん友達が出来て楽しいな、となるのだけれど、あるところから後、なんかうっとうしいな、ってなる。その線はどこですかっていわれても、たぶん自分でコントロールできる範囲は限られているのね。何人くらい、とマジックナンバーでいうと25人くらいじゃないかな。まあいろんなセクターで25人ずつってことだけれど。例えば出版関係だったら、出版業界に25人、いや、多すぎるな。これに関わる人たちで25人くらい。出版社のエディターとかカメラマンとか、ジャーナリストとか、批評家とかを含めて25人くらいかな。一業種、一つの仕事について25人。それくらいが親しく出来る限界で、それ以上になると、ちょっとあの… ほら、遊牧民のバンドも大体25人でしょ、マジックナンバーって。一番下が7か8で、次が25。大体これが基本だよね。ある程度の仕事でこれくらいが限界じゃないかな。それを超えたメンバーでやろうとするとちょっと無理じゃないかな。

V それからもう一つ訊きたい事があって、著作の中に「ぐるぐる」とあったじゃないですか、流通についての…

内田 あ、福岡先生とやったやつだね。

V そうです。最近内山先生の著作のなかで、交換があるから流通が促進されるというのを読んで、先生の著作の中でも、交換に対する欲望というのが、あれはどのあたりでしたっけ。

内田 交換に対する欲望について書いたのはなんだっけなあ。いろんなところに書いていますから(笑)。で、ご質問は。

V 今日、先生のブログの記事を読んだのですが「価値があるからこれを渡そう、というのではなくて、まず交換をしたいから何かわけのわからないものをどこかから持ってきて交換するんだ」という考えと、「流通が先に完成したから生産が促進されるんだ」という内山さんの論が重なったので、関係があるのかなと思いまして。

内田 うーん。でもまあ、人類学的に言ったらまず流通。交換といいますか、どこかに書いたと思いますが、物がスムーズに交換されるためにはいろんなインフラストラクチャーの整備がいるわけですよ。生産活動をするにしても、製品を交換するためには、例えばまず貨幣制度みたいなのから、共通の言語があるとか、通信手段があるとか、運送手段があるとかが必要。要するに、一個やるためにもその周りに付属する膨大な知識や技術が必要なわけです。トロブリアンド群島のクラ儀礼にしても、クラ儀礼自体はぐるぐるぐるぐる貝殻を回すだけであって、貝殻自体にはなんの価値も無い。この貝殻をぐるぐるぐるぐる回す、十年単位で一周させるためには、まず船をつくらなくちゃいけない。造船、それから操船、船を運航する技術だよね。そして海洋についての学、気象についての学、天文についての学とかね。船で隣の島に行くということが交換の為に義務づけられた瞬間に、それに付随して膨大な数の人間的な技術や知識というのが必要になるわけであって、たぶんそっちなのだと思う。そういうような技術を獲得するために、クラ儀礼みたいなことが行われる。あたかもこれが目的であるかに見えるのだけども。本当はあの、近隣の異族たちのあいだで共通の言語をもったり共通の度量衡を持ったり、共通の交通手段・通信手段を持ったり、あるいは宗教儀礼としてやってみたり、そういうことが目的。一個の何かを交換する、というのはそれに付随して膨大な数の、たぶん無限の知識とか技術というやつを要求するわけですよ。たぶん、やろうと思ったら。そっちが目的だと思う。これは、あたかも目的であるかのように仮称しているけれども、実際はそれがスムーズに動くことが目的。

ビジネスもそうかな。平川君も何度か書いているけれども、ビジネスというのはそういうある種の商品をやりとりしているというのではなくて、それをやることを通じて、実際には人間と人間の間で様々なやりとりがあって、それは、このビジネスを面白くするためにはいろんなことができなきゃいけない、ということ。だから、すごく大きな遊びをしようと思ったら、例えばアップルのスティーブ=ジョブスさんがすごいことをやろうと思ったら、iPadみたいなああいうものを作って、みんながおおとか言って300万人も買いに来るといったようなことをやりたいなあと思ったら、そこに至るためにはものすごく巨大な基盤が要るわけですよ。その巨大な基盤を作ったうえでしかああいうゲームが出来ない。ああいう新製品を開発してそれをマーケットに提示して、みんながおお、となるっていう、この、どっちに力点があるのかといったら、実はあれだけの大きな遊びをするためにはこれだけの仕掛けが要る、ということの方だと思う。

だからビジネスマンがすごく楽しいというのはね、ここまでやらなければ、これほどまでに面白いゲームはできなかった、という部分があるでしょ。わずかな投資、持ち出しで経験できる楽しみよりは、積み上げていった膨大な努力の果てに出来る遊びのほうがいい、と。膨大な努力を積み重ねなければできない一瞬のゲームというのがあるわけで、それをやっぱり優れたビジネスマンたちは求めているのではないですかね。だから、面白いからやっていると言う人は実は割りと、本質をつかんでいる。何が楽しいかと言うと、これを積み上げていくのが楽しいということですよ。