§1 はじめに
前日の冷たい雨模様とは打って変わって、駒場祭二日目の朝はやわらかな陽射しがキャンパスに降り注いだ。模擬店が並んだ並木道は前日とは比べ物にならないほどの人で賑わっている。
今年の駒場祭二日目は、「文学談話室」と題して、文芸誌『早稲田文学』の主宰者であり、文芸評論家の市川真人先生をお招きして講演会を開いた。そして、そのお話をふまえたうえで、ゼミ生による市川先生への公開インタビューを行った。
文学企画では、「毎年数多くの新作小説・新人作家が世に出る中、私たちは本当に出会うべき文学作品に出会いにくくなっているのではないか」という問題意識のもと、これまで何人かの小説家・編集者・出版社の方へ取材を重ねてきた。
今から百年ほど前、日本に「国民文学」と呼ばれるものが登場した。そして、テレビ・漫画・インターネットといった新しい娯楽が台頭していく中で、しだいに文学はその地位を下げていった。市川先生が語るように、「私たちにとって文学は本当に必要なのか?」と問い続けなければならない時代に、私たちは生きている。そして現在、電子書籍の持つ影響がまだ未知数である中で、私たちはどのように文学と向き合えば良いのだろう。くすぶる思いを、市川先生にぶつけた。
大野 択生
□講演者紹介
市川 真人 (いちかわ まこと)
1971年生まれ。
雑誌『早稲田文学』プランナー / ディレクター、TBS系情報番組『王様のブランチ』ブック・コメンテーターなどを務める。
2013年4月より、早稲田大学文学学術院准教授に就任。
主な著作に、『芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったか 擬態するニッポンの小説』(幻冬社新書 2010年)、「文学2.0」(雑誌『思想地図β3』ゲンロン 2012年)等、批評ユニット「前田塁」としての著作に、『小説の設計図(メカニクス)』(青土社 2008年)、『紙の本が亡びるとき?』(青土社 2010年)等がある。