はじめに
2014年2月、「吉祥寺バウスシアター閉館」という衝撃的なニュースが飛び込んできた。
「爆音映画祭」を初めとする画期的で斬新な企画を多数生み出したバウスシアターの閉館の報は多くの映画ファンの悲哀を呼んだ。
何故、多くの人々に愛されてきたバウスシアターが閉館しなければならなかったのか。そして、インディペンデント映画界にとって一つの聖地でもあったバウスシアターの閉館はインディペンデント映画の衰退の前哨となる出来事ではないか。
そうした問題意識に加えて、消え行くものへの餞として、バウスシアターの存在を永遠にするため、バウスシアターへの取材を敢行した。
インタビュイー:武川寛幸(バウスシアター)
吉祥寺バウスシアター
東京都武蔵野市吉祥寺本町にある映画館。ロードショーの他に単館系作品も上映している。
前身の映画館「ムサシノ映画劇場」(1951年開業)が建物の老朽化により閉館、改築により1984年3月、現在の形で開業。娯楽系作品からインディペンデント作品まで幅広く上映しており、また独自で上映会を開催しているほか、ライブや落語会といったものまで多岐に展開している。
2014年6月10日をもって閉館予定。
1:バウスシアター閉館 「時代の流れというものがあると思います」
まず初めに、なぜ閉館するのかという、我々が一番聞きたかった点をお聞かせください。なぜ、そのような運びになってしまったのでしょうか。ひとつは、ざっくりいうと時代の流れというものがあると思います。駅の近くの商店街のなかにある劇場というのは、かつてはすごく魅力的な場所で、集客が見込めるスポットでした。ですが、人の流れが、いわゆる郊外型になってきているのはひとつ大きいかな、というところですね。あとはよく言われるように、シネマコンプレックス(1)が90年代から隆盛を極めて、スクリーン数が非常に多くなってきている。たとえば、10年前だと初日に公開した映画を5回上映して、1000人近く入っていました。それが、立川や昭島にシネコンが出来て半分に減りました、という感じで、近隣にシネマコンプレックスが新しくオープンするのに比例してお客さんの数も減っていくという現象がここ10年で起こっている、それに伴って収益も減ってきた、というのがひとつです。
あとは、デジタル化の波に乗れなかったっていうことがあって、最近、映写機は35mmの映写機からデジタルの映写に変わってきました。実は映写機に関してはデジタル化してるんですよ。ですが、サービス面でのデジタル化というのに乗り遅れてしまいました。券売システムとか、予約のシステムとか、サービス面での設備投資というのがどうしても後手後手になってしまっていて、そういうところのボロがここにきてちょっと出てきた。具体的に言うと、ムビチケという、クレジットカードサイズのチケットが、前売り券に変わって主流になってきているんですが、これを導入するには設備投資をしなければいけない。それで、「ああ、バウスシアターは予約できないのね」とおっしゃるお客様が増えて。それも客離れに影響しているのかな、というのが二つ目ですね。
あともう一つは、建物の老朽化。バウスシアターとしてこの場所でオープンしたのが1984年の5月なんですね。今年でちょうど30年なんですけれども、建てたままで改装していません。で、色々ガタが来ていたので改装しようという話になりましたが、それには莫大な改装費用がかかってしまいます。それをどうしても工面できない、というのが三つ目。ざっとこんなもんでしょうか。
バウスシアターと言ったらミニシアターの中でも相当大御所ですよね。そんなバウスの閉館というのは、ミニシアター界全体の衰退の前兆のように思ってしまったのですが、今言われた閉館の理由というのは、ミニシアター全般に当てはまることでしょうか。
そうですね、すべてではないにせよ、今言った理由のいくつかは、他の劇場にも該当するかなと思います。
ミニシアター界全体に通ずる傾向があるというお話ですが、ミニシアターは結構、インディペンデント映画をやるじゃないですか。そういう映画が日本映画の活力を支えている面もあると思うんです。ミニシアターの衰退がひいてはそういう日本映画全体の衰退にもつながるのではないかという危惧があるのですが、そのあたりはどう思われますか。
他の劇場はわかりませんが、バウスシアターがいわゆるインディペンデントとか独立とかマニアックとかコアとか言われるような作品を積極的に取り上げてきたのは、実はそういう映画しか上映できなかったというのが正直なところなんです。
それはいったいどうしてでしょうか。
たとえばですね、東宝松竹東映等々、メジャーな国内の映画会社があります。ここと提携している劇場には、それらの映画会社が配給する有名な映画や有名な俳優さんが出ている映画を契約できます。バウスシアターはそういう提携関係のないまったくフリーなスペースとしてオープンしたので、メジャーな映画を上映させてもらえなかったんですね。付き合いがないのでコネもないという単純な話で、かけさせてもらえる映画を色々探したら、たまたまインディペンデント映画だった、ということです。それを積み重ねていった結果なんですかね。
バウスの経営母体をどこかに吸収したりするのですか?
いや、それもないですね。完全に解散です。スタッフも転職しますね。吉祥寺といっても商店街の一番奥ですし、映画館の立地としては必ずしも魅力的な場所ではないです。もちろん引き継ぎたいと言ってくれる映画会社もあったのですが、金銭的な折り合いがつかなくて話が流れてしまって。例えばリニューアルしてビル型の建物にすれば、テナントもたくさん入るし、もう一回チャレンジできるかもしれないという発想があったんですけれども、景観の問題がありまして、建物の高さ制限があるんです。今の高さが限界ですね。それより上には建物を作れない。例えばシネマコンプレックスをここで作るのは無理ですし。
バウスは固定ファンが多いですし、「移転する」と言ったら資金も集まると思うのですが。
そういう話も出ていて、「バウスの名前を引き継ぎたい」という話はあるんですけど、やっぱり凄くお金がかかってしまうんですよね。どこかのお金持ちが「10億までだったらいいよ」とか言ってくれれば話は別ですけれども、例えば今クラウドファウンディング(2)とか、一般の方から出資を集めたとして、仮に1000万集まったとしても、やっぱり映画館を1から作るとなると、数億円はかかります。
(1) 同一の施設に複数のスクリーンがある映画館である。シネコン、複合映画館とも呼ばれる。
(2) 不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指す。