KENBUNDEN

合コンから貧困まで 東京大学見聞伝ゼミナール公式サイトです

トップページ > Interviews > 【映画企画】バウスシアター取材

Interviews

【映画企画】バウスシアター取材


4:ミニシアターの戦略 「映画業界は狭いのかな、って。」


シネコンとかが強くなってきて、ミニシアター系のマイナー映画というものを好む層のパイの取り合いになってきた時に、他のミニシアターさんとそれぞれ差異化を図って、ライバルでありつつも協力するということもあるのかな、と思ったのですが、そのへんの、ミニシアター間の協力関係というものはあったのですか。

それは勿論あります。例えばチラシを置き合ったり予告編を互いに上映しあうネットワークというのはあります。しかし一方では競合相手でもあります。良質な映画を上映してお客さんをたくさん集めて、劇場のファンをたくさん増やして、かつ儲けたいというのが目標なんですけど、その中で皆が「他の劇場にお客さんを渡したくない、独占したい」と思うのは当たり前というか。仮に都内1館でのみ上映した作品が大ヒットすれば、業界用語で“拡大”と言いますが、徐々に上映館数を増やすことがあるんですね。でもいまは不景気も相まって、そういう傾向が減ってきて、すごく慎重になっているというか、そういうムードはあるかもしれませんね。

 

どのぐらいお客さんが来るか、という予測などはなさっているんですか?今、結構どの映画があたるかっていうことは分からないじゃないですか。先日やっていた白石監督(5)のオールナイトなんかは特にそうかな、と思います。あとは例えばオーディトリウムで『テレクラキャノンボール2013』(6)が流行っていたりとか。

事前につかむというのはやっぱり難しくて。「オーディトリウムでテレクラキャノンボールがめっちゃ流行っているらしい」となれば、「じゃあ声かけてみようよ」っていう話になることも場合によってはありますし。白石さんに関してはスタッフ全員が好きというのがまずある。あとは白石さんがお客さんとしてよく観に来てくださる。思わず声をかけて、大ファンなので、いつかご一緒したいですと。そういう話をしていて、企画がスタートして、まずは経費から考えましたね。このぐらいの規模でやればこのぐらいお金がかかると。興行形態は様々ですから1週間ぐらいのレイトショーでやるのか、オールナイトで一夜だけにするのか、その際の経費と収入を予測しつつ、この場合はタイトにまとめた方がよかろう、ということでオールナイトイベントになりました。

 

有名俳優とかが出ていればそれでお客さんがある程度見込めると思うのですが、インディペンデント映画だとTwitterとかの口コミだよりになってしまう面が大きいと思うんですけれどいかがでしょうか。

Twitterが流行りだしてからは、「コレは革命的だ」と思いまして、フォロワーさえ増えればちょっと書くだけで宣伝になるんじゃないかと思った時期もありましたが、全くそんなことはなかったですね。効果がないことはないんですけど、結局外に広がらないんですね。これはもういろんなメディアで言われていますけどね。結局同じ思考の人たちが狭い空間の中でつながっているだけなんですね。映画もそれと同じです。遊びのツールとしてはすごくおもしろいですが、宣伝のツールと考えた際に、やっぱり思い通りにならない、というのが実感です。

 

「広がりのなさ」というか、映画界隈の中で閉じられているというのが問題なのでしょうか。そうすると「吉祥寺よりも、渋谷新宿」といった母数の勝負になっちゃうのでしょうか。

今はどうしてもそういう考え方になりがちですよね。人が居ないところにはそもそも映画が来ない。負のスパイラルですよね。

 

内輪のパイ自体が減っているということでしょうか。

これは半分冗談ですが、たまに感じるのが、劇場で働くアルバイトのスタッフはみんな映画が好きで、勤務シフトの合間に映画を一本観てから出社するんですよ。どこの映画館でもアルバイトの子達ってそうやってるんですけど、「これはひょっとして、その人たちだけで業界映画のお客さんが回っているんじゃないか」と錯覚してしまうぐらい(笑)。

自分も映画を観に行ったりすると、どこどこの劇場の人だとか、どこどこの配給の人だとか、映画業界の人たちに会う機会が多かったりして。映画業界は狭いのかな、って。

 

最後に何かありますか。

バウスから話はずれるんですが、僕は出身が長野県で、「星空の映画祭」という野外で映画を観る企画をやっています。爆音映画祭を始めたことがきっかけでやりはじめたんですけれども、標高1300mの高原なんですよ。それで、寒い。夏でやっと涼しくなるぐらい。原っぱに大きなスクリーンを張って。35mmのフィルム映写機を常設して夏の間だけ標高1300mの高原に出現する秘密の隠れ場所みたいにして。星空とスクリーンの間に境目はない、みたいなロマンチックなことをやっています。それは元々地元の人がやっていて、お客さんが離れたりして一時期中断していたのを僕が引き継いで今年で五年目になります。

始めた当初は、映画離れが叫ばれているので、「映画の楽しさをもう一度感じ取って欲しい」という思いでした。そのための一つのきっかけとして、屋外に出て映画を観ようというコンセプトでした。それでどんどんお客さんが増えてきて、それは凄くありがたかったんですけれども、一方で「俺が今やっていることって地元の映画館、他の映画館にとってはどうなんだろうな」という思いが生まれました。自分が映画業界を盛り上げようと思ってやっていることが、映画業界をさらに狭めているんじゃないかと思ってしまったことがあって、その答えがまだ出ていないんですけど。例えば爆音映画祭で映画の楽しさを知って「また映画館に行くようになった」と言ってもらえたらいいんですけど、もしそうじゃなかったらどうしようと思って怖くなることがあります。まあ、暗い話をしてもしかたありません。どうにかやらないと。バウスシアターはなくなってしまいますが、爆音上映はきっとなくなりませんし、また違う場所、違う形で、自分自身も携わりたいですし、またみなさんにもお会いしたいと思っています。


(4)『それでも夜は明ける』は2013年のアメリカ・イギリス歴史映画。第86回アカデミー賞作品賞受賞。

(5)白石晃士(しらいし・こうじ)監督。『ノロイ』など、多数のホラー・オカルト映画を多数製作している。4/5にバウスシアターにて一夜限りのオールナイトが開かれた。

(6) 人気アダルトビデオシリーズ「テレクラキャノンボール」の劇場版。バクシーシ山下、ビーバップみのる、タートル今田をはじめとするAV監督たちが、バイクや車で東京から札幌に向けたレースを繰り広げつつ、各地でゲットした素人女性の数を競い合う。オーディトリウム渋谷で上映され、異例の客入りを記録。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
バウスシアターはあと1ヶ月足らずで閉館してしまう。現在、バウスシアターでは30年間の記憶を全て吐き出すかのような大音量で、最後の爆音映画祭が行われている。上映する映画の顔ぶれは、バウスシアターの面目躍如というべき名作揃いだ。どの作品を観ても悔いはないだろう。バウスシアター最後の宴、是非訪れてみてはいかがだろうか。

DSC_1160