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【観劇企画取材】高野しのぶさん(現代演劇ウォッチャー)

高野しのぶさん 記事

はじめに

「演劇を観てみたい」そう思っていても、劇場に足を運べていない人も多いのではないか。その原因のひとつに、たくさんの公演のなかでどの公演を観にいったらよいかわからないということがあると思う。そんなとき高野しのぶさんの発行しているメールマガジン『面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台』は演劇を観にいこうとする人たちを案内してくれる。高野さんは「現代演劇ウォッチャー」と名乗り、「劇場に通うことが日本人の習慣になってほしい」と無料のメールマガジンや、Webサイト「しのぶの演劇レビュー」を通して演劇情報を発信している。

今回、高野さんにメールマガジンを発行するようになったきっかけや、どうしてこれほどまでに演劇というものにはまり込んでいるのか、そして演劇の魅力などについて、演劇に対する熱い思いをお話していただいた。

演劇を観にいったことのない方にも記事を読んでいただき、そして実際に劇場に足を運んでいただけたら幸いだ。

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【プロフィール】
高野しのぶ
現代演劇ウォッチャー/「しのぶの演劇レビュー」主宰

大阪府出身、東京都在住
Webサイト「しのぶの演劇レビュー」にて、レビュー(観劇感想文)をはじめ、ワークショップやオーディションといった俳優向けの情報など、様々な演劇情報を発信している。また、無料メルマガ「今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台」を月に一回発行している。部数は現在約2000部。

「しのぶの演劇レビュー」 http://www.shinobu-review.jp

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「演劇は面白いんだぞ」と伝えたくなった

―大学に入る以前に、演劇を頻繁に観ていましたか。

全くと言っていいほど観ていなかったですね。私は大阪出身で大学進学を機に東京に来たのもあってか、野田秀樹さんらが活躍した80年代小劇場ブームの最盛期にも縁がなくて。東京に出てきて自分が通っていた私立大学が肌に合わなくて悩んでいたら、友達が大阪出身の東大生を紹介してくれて、東大駒場キャンパスによく行くようになりました。その人が東大内の劇団に入ったんです。彼が出る公演を大学一年生の冬に観にいったら、それがすごく面白くて。「こんなに面白いことがあるのにやらない馬鹿はいない」くらいの気持ちで(笑)、「私、この劇団に入ります」って言いに行きました。東大外の人も入れる劇団だったから。

劇団を辞めて社会人になってから、26、7歳のときにもう一度演劇をやることになりました。劇団時代の後輩からナンセンス・コントの公演に出ないかと誘われて。学生のときは本当に馬鹿でしたから、「自分の劇団が日本一!」ぐらいに思っていたんですが、そのときにはもう社会にも出ていたので、「これから演劇をやるならちゃんと勉強しなきゃ」と思い、役者をやりながら、「日本の演劇を知るために、とにかくたくさん観よう」と、国立劇場から観始めました。当時は新国立劇場が開場して2年目くらい、1999年だったかな。数年で俳優の才能も制作の才能もないことがわかり(笑)、結局観るほうが専門になったんです。

―Webサイトやメルマガをはじめたのはなぜですか。

まず、お芝居を観ることに目覚める転機がありました。SMAPの草彅剛さんと少年隊の錦織一清さんが主演していた『蒲田行進曲』という、つかこうへいさん作・演出のお芝居のシアターコクーンでの初演、しかも千秋楽をご縁があって観ることができて、カーテンコールが終わってもしばらくイスから立てないくらい感動したんです。それまでは「お芝居は観るよりもやるほうが面白いに決まっている」と信じきっていたんですが、観ることもクリエイティブだと気づいたんですね。自分がやりたい演劇を観る、探すという「作り手視点」で観ていたのが、「能動的な観客」に変わった。あと、演劇ファンならよく感じることだと思うんだけど、観劇という趣味は周囲から共感が得られにくい。たとえば合コンに行くと、「趣味は演劇です」と言うだけで男の子がサーっと引いていくんだよね(笑)。それにすごく腹が立って、「演劇を知らないくせに、演劇が趣味だって言う人を馬鹿にするな、演劇はすごく面白いんだぞ」って伝えたくなったんです。

それで、当時関わっていた社会人劇団のホームページに「しのぶの観劇掲示板」というコーナーを作ってもらったのが、私のインターネット上での情報発信の始まりです。やがて掲示板形式だと古いログが消えてしまってもったいないということで、また違う友達に作ってもらったのが今のブログ「しのぶの演劇レビュー」です。その頃(2004年)はちょうど“ウェブログ”というものが生まれたぐらいの時期でした。

だけど、掲示板やブログだと、私がある小劇場公演の初日を観て「すごく面白かった!」と書いても、友達がそれを読んだ時にはすでに公演が終わっていた……なんてことは珍しくないんですよね。公演期間がとても短いですから。「これは無理やりにでもメールで送りつけるしかない!」と思い立ち、メルマガを発行することにしました。もう8年になります。

どんなものでもそうですが、演劇にも面白いものと、面白くないものがある。私のように偶然、面白いものに出会えれば、こんなにも熱心な信者になるわけで。最初のご縁が肝心なんですよね。少なくとも私のメルマガに載っているものを観にいけば、「もう二度と演劇なんて観ない」と思ってしまうような、地獄のような体験はしないと思います(笑)。