はじめに
2014年2月13日、第68回毎日映画コンクールの結果が発表された。藤岡利充監督による、マック赤坂を初めとする所謂「泡沫候補」を描いた映画『映画「立候補」』は、ドキュメンタリー映画賞を受賞した。外山恒一、羽柴秀吉、そしてマック赤坂といった、ネットで有名な「ネタ候補」たちは何を思い、何故負けると分かっていて出馬するのか。彼らの戦いを通じて日本の選挙の光と影を鋭く描いたこの映画は、ポレポレ東中野における単館公開から、口コミで評判が広がり全国各地の劇場で上映され、上記のように毎日コンクール賞を受賞するに至った。今回の取材では、ドキュメンタリーの金字塔とも言えるこの傑作を描いた監督の姿に迫った。
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【プロフィール】
藤岡利充(ふじおか・としみち)
1976年、山口県生まれ。
2005年、「フジヤマにミサイル」で映画監督デビュー。
2013年、泡沫候補の戦いを描いた映画、「映画『立候補』」で毎日コンクールドキュメンタリー賞受賞。
【映画の編集意図】「マック赤坂を見て得られた感動をどう伝えていくか」
-本日はよろしくお願い致します。さて、映画「立候補」は泡沫候補のドキュメンタリーですが、監督には、「こう撮りたい」という意図はありましたか?想田さん(1)がよく「観察映画(2)」と言われますけれど、僕も観察するつもりで、最初から特に撮影意図やオチを決めようという意志はありませんでした。その理由としてはまず彼らのことを誰一人知らないから。泡沫候補と呼ばれる方々が、なんで選挙に出るのか。本人たちは負けると思っているのかどうかだけでもまず確認したいなと。それで、もし勝とうと思ったらどうもがくのか。負けるとわかっているのだったら、彼らにどんな目的があるんだろうと探れたらいいなと思って撮りました。
-では台本もなく意図もなく、ただ撮っていたものを編集したらこうなりましたと。
いや、それは違います。自分の考え方としては、元々この映画の発端は夢追い人という企画で、泡沫候補だけでなく、夢のようなことを追いかけている人に会ってインタビューするだけの企画を考えていました。そんな時、たまたまマックさんが大阪府知事選挙に出ると言われたんで、『選挙(3)』という想田さんの映画もありますし、選挙を一本撮れば泡沫候補の戦い方の雛形を描けるのではないかと考えました。その雛形を撮った上で選挙期間中にいろんな疑問が生まれてくる。あとはその穴埋め問題。自分で作った問題を元に疑問を穴埋めしていこうと思いました。軸としては、大阪府知事選挙。そこから、問いを作って解答を出すという過程を編集上で行い、さらに僕が体感した気持ちを皆さんにも感じてもらえるような作りにしようと思いました。
-そうした疑問は、まず飛び込んで撮っていくなかで浮かび上がったのですか?
マックさんについていって、心動かされた部分があるんですよね。マックさんを見た人は分かると思うんですけど、普通の人は五分も持たないんですよ。まず、「あ、マックいるな」と。で、踊っているのを確認して写真を撮って帰る。話を聞かないんですよ。それは僕も同じ。でもこの人がずっと続けているのは何か意図があるはずなんです。マックさんには桜井さんという秘書の方がいて、桜井さんの喋り方がどうもマックさんの口調に似ている時があった。これは何か惹かれているところがあるな、と思ったんですよね。マックさんにもいい面があって、それを桜井さんの目を通して表せればそれなりに共感を得られるかもしれないと考えました。
そして一番心動かされたことは、橋下さんとのやり取り(4)。あそこで、10分間聴衆の前で演説する時間をもらって、普通の人だったらあれで満足して帰ると思うんです。だけど彼はその後も橋下さんの演説中にぐるぐる周りを回っていて、で、演説が終わって帰るのかなと思ったら、もう一回橋下さんに会おうと突っ込んでいく。やっぱりあれは自分に誇りがないとできないですよ。自分が下だと思っていたらああいう行動は出来ません。あくまで橋下さんと対等であるという姿勢。自分を信じている。で、あのシーンに、正直感動したところが僕にはあって、それを上手く理解させるためにはどうしたらいいんだろうなあ、というところから編集方針が決まりました。
-では、疑問の穴埋めをして共感を得て、最後はマック赤坂を通じて得られた感動をどう観客に伝えていくかと。マック赤坂を神格化して書くことも出来たと思うのですが、マックの悪い面も描いたのは、公平を保つために意識しましたか?
そうですね。そこは気を遣いました。僕、マックさんが好きか嫌いかといわれれば嫌いなんですよ(笑)。ただ、この映画はマックさん中心に作っているからやっぱりマックさんを受け入れられるようにする。僕自身もマックさんを受け入れて作っていますし。投票しろとかじゃなくて、マック赤坂という存在は居る。好き嫌いを別にして、マック赤坂という人物を受け入れられるようになってほしい。
(1)想田和弘(そうだ・かずひろ)。ドキュメンタリー映画監督・脚本家・演出家・ジャーナリスト。「観察映画」と呼ばれる手法でドキュメンタリー映画を撮り、『選挙』、『精神』、『演劇』など数々の傑作を生み出している。
(2)想田氏によるドキュメンタリー映画の方法論。なるべく予断と先入観を排除して対象をよく観察し、その観察で発見したことを映画にするという手法。観察映画にはナレーションも音楽も挿入されず、解釈は視聴者に任される。
(3)映画監督の想田和弘による、観察映画第1弾。ベルリン国際映画祭、シドニー映画祭、シネマ・ドゥ・レエル映画祭など数多くの映画祭に正式招待。ベオグラード・ドキュメンタリー映画祭で、グランプリを受賞した。また、60分短縮版がBBC、PBS、ARTE、NHKなど200カ国近くでテレビ放映され、国内外で大きな注目と評価を得る。2009年には、米国放送界最高の名誉とされるピーボディ賞を受賞する。
(4)大阪府知事選挙投票前日、橋下徹氏が大観衆の中で演説を行おうとする中にマック赤坂が乱入し、橋下氏に演説時間を分け与えてくれないかと頼むシーン。