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Reports

2014駒場祭「ミニシネマ・パラダイス」講演会記事


質疑応答

東京・大阪・名古屋では『いのちの食べかた』のような独立系ミニシアターの映画を観る機会が非常にたくさんあると思いますが、稚内にいる人や石垣島にいる人も、『いのちの食べ方』を観たいと思うんです。私も地方出身で当時はネットがなかったので、情報誌を見て忸怩たる思いをしたものです。地方の人たちがミニシアター映画を観るチャンスをどのようにして広げていくのでしょうか。

(浅井)
配給方法には、商業映画館で上映する映画の場合と、その上映会を誰かが主催する自主上映の場合の、二通りのやり方がある。だから離島であろうと稚内であろうとお客さんを集める術があるならば、映画館がなくてもやる方法はあると思う。

(山下)
パイが少ないと思いがちな部分がありますが、地方でもシネコンに働きかけて、「ここだったら絶対こういったお客さんが来る」といった風に考える、つまり「上映を考える・お客さんを作り出す・呼ぶ」ということを努力するのは「まだまだできていないことなのかな」と確かに思いますね。『いのちの食べ方』なんて本当に、そうだと思います。「誰も観ないんじゃないか」と思っていた映画でしたが、食べ物の危機に関して興味を持っている人は絶対にいます。だから、そういう方の中でまだ観ていない方に向けて、どうアプローチをしていくかというのは、本当はもっと考えないといけないことかなとは思いますね。

私は、DCPやSNSといった新たなテクノロジーを利用できる環境は2000年終盤に整ってきたのだと思っています。一方で、90年代は観客の映画の享受の仕方やサイクルが今と結構違っていて、当時は映画が学生の中で語るネタや議論内容のひとつだったし、東大もちょうどそのとき映画評論を担当している方が総長になっていた。そこから考えると、2000年代初頭から終盤までが、ミニシアターの状況として最も厳しかったのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

(浅井)
基本的に人生、厳しいことは忘れていかないとしょうがない。自分には、今思い出して語ることはなにもない。今のデジタル化に関することは正確には、2012年頃からで、全くおっしゃる通り。さらに言えば、映画館のホームページでスマホに対応していないところが多い。アクセス解析すると、アップリンクは7割がスマホから。スマホからでも予約できるようにしている。そうすることで、テクノロジーのおかげで便利になりお客さんも増えていると思う。

(山下)
そうですね。WEBに関しては努力がまだまだ足りないと思います。未だに8mmフィルムとかで制作している人がいて、それを上映しているので。ちょうど今度配給しようという映画があって、WEBの人との間でスマホ対応にしようかという話があって……。やっぱりそうしたほうがいいですかね?

(浅井)
もう半分以上の人はwebから映画の情報を得ていますよ。やっぱりiPhoneの普及率がとても高くなったから。情報の発信方法もそうなるのは必然。最近の若い人は映画の情報を電車の中とか授業の後ろの方の席とかで、スマホで見ていますよね。

(山下)
そうなんですね。あと、コストの話に関して言えば、昔と比べて圧倒的にコストが下がっている。

(浅井)
だから個人でも配給ができるようになった。

(山下)
前ほどリスクを背負わなくてよくなったから上映できる作品の幅も広がりましたよね。

(浅井)
チラシもプリントパックとかネットで入稿する印刷が、より安くなった。

(山下)
印刷費もとても下がりましたね。予告編を作るのも、前のフィルムで作っていた時代よりずっと簡単になった。さらに、「チラシを配るよりSNSをやっていたほうがいいんじゃないか」とも思いますし、やっぱり時代は変わっていると思います。うちは2000年にオープンしたので、その時の経験に即してしまう部分はありますけれども、おっしゃる通り2000年頃というのは映画館ではフィルムで上映しなくてはいけなかった。いうなれば端境期かもしれませんね。「デジタルでDVDとかブルーレイで上映してください」といわれてもなかなか映画館としては上映できないというのもあったし、予告編を作るにしても、フィルムで作るなら100万ほどかかりました。そこから考えると今は、かなり状況がよくなっている。

浅井さまがおっしゃっていたのですが、これからはソフトとハードを抱き合わせていきたいということでしょうか。

(浅井)
抱き合わせるというか、どっちも自分の意思でコントロールしたいっていうことです。例えば、アップルは、OSとハードを自社で作っている。なので、品質もブランドイメージもコントロールできる。映画館はハード、ソフトはそこで上映する映画。その両方をコントロールしてお客さんに楽しんでもらうことが重要だと思っている。シネコンでかかるものもいいけど、たとえば、食に関するオーガニックだとかの問題を提起している映画をやっている時にコンセッションで、コカ・コーラとか売っているとちょっとどうかなあと思うし、もうちょっとオーガニックなものを売りたいなと思う。

映画で得られる一回性みたいなのも、そこで体験する総合的な体験として提供したいと?

(浅井)
そうですね。

私は吉祥寺のバウス(吉祥寺バウスシアター)に通っていましたが、バウスの名物で爆音映画祭があり、大変盛り上がっていました。けれど、元々爆音用には作られてないから、台詞がすごくずれて聞こえたりしたこともありました。そういうことを考えると、映画を作るときに、どういう映画館で流すか、どういう設備で作るかというところまで考えられたもの、例えば「爆音で流すと超気持ち良い」みたいな作品がこれから作られていくのかなと思っています。それは映画館というハードと、流す作品というソフトの問題だと思うのですが、そこにどんな展望がありますか。

(山下)
でも、それは既にある程度やられているんじゃないですか。うちでも、例えば、個人作家なんかはそういう段階に入っています。個人で3D映像を作るとか、自分が作った特殊なカメラで観てくださいとか。あと牧野貴さんとかが、爆音映画祭のために自分のライブをやるとか。ライブに近いですよね。

(浅井)
ライブだったら、それに対応して、ミキサーと照明がそこに立ち会いますよね。でも、それを映画でやろうとすると、商売としてはどうなるかわからない。だから、基本的にはどこでも観られる状態にするのがいいと思います。

二人とも買付の際、自分のところで上映する際に信念とかがあれば教えてください。

(浅井)
それはもう、ヒットするかどうか。お金が儲かるかどうか。

それただひとつ?

(浅井)
そうですね(一同笑)。それを上回る理屈はない。お金をおいといてでもやりたい、優先したいことなんてないよね。それはもう会社が潰れちゃうからね。無いですよ。

(山下)
やっぱりやりたいものの中で、これ面白いなって思っても上映できない映画はたくさんある。これを上映することで面白いことができるなと思ってもお客さんを呼べないと思ったら上映できない。それがやっぱり一番大きい。

浅井さんにとっての「良い映画」とはなんでしょうか?

(浅井)
自分の好みと儲かる映画を一致できた映画が僕にとって良い映画です。アップリンクで配給する場合は、その映画と何年も付き合うので、その選択はより慎重になります。映画館として上映する場合は、おりお客さんのことを考えています。

ミニシアターとしてアップリンクがあるんですよね。配給の段階で売れる映画を中心に、となったときに、大手のシネコンと何が違うんですか?

(浅井)
売れる映画が悪い映画という訳でもない。なので、アップリンクでは、ハリウッド映画も上映できるようになったので、売れていてお客さんがまだまだ観たいという良い映画は上映します。

大手が目をつけないようなもので、売れそうな映画を配給するってことですか。

(浅井)
配給においては、そういうことですね。アップリンクでは、いい映画と売れる映画を一致させないと会社が成り立たない。そこで、自分たちが選んだ映画をどうヒットさせるのかというのが毎日の仕事で、それは配給会社にとって一番重要な仕事です。

(山下)
究極言ってしまうとですね、『アーナル・フラーナー』という、僕が大好きな映画があるんですけど、白いコマと黒いコマしかない。ちかちかするだけ。でもこの作品は映画の原初的な体験を出来る映画だなって思って、この面白さをみんなに伝えたいなって思うけど、これを劇場でやるのは、力が及ばないところがある。究極的には、そういう映画がみんなで観られるようにしたいと思っています。