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Reports

2014駒場祭「ミニシネマ・パラダイス」講演会記事


4 ミニシアターは本当に「衰退」しているのか

―今年(2014年)、吉祥寺バウスシアターなど長年愛されていたミニシアターがいくつか閉館してしまいました。また、NHKなど多くのメディアでは、ミニシアターの存続を危ぶむ声が発信されています。こうした風潮について、映画館を運営なさっている立場のお二人はどのようにお考えですか。


(浅井)
みなさん普通に考えてみてくださいよ。喫茶店なり定食屋で30年40年もずっと同じものを出して、同じ席数、テーブル、椅子で店員だけが30才年をとったような状態じゃ無理だよ。メニューを変えなきゃ駄目だろうし、テーブルも椅子、インテリアもどこかの段階で変えなきゃ駄目。さっきの記事とかは、足で取材してない。ミニシアターの存続を話のネタにしたらノスタルジックだから面白いんだよ。実際はそんなこと全くなくて、衰退どころか、ミニシアターでは昔より多様な映画を上映していると思います。

(山下)
シアター・イメージフォーラムで今まで一番入った映画の一つは(13)『いのちの食べかた』という作品なんですけど、この映画は多分今までだったら絶対かけなかった映画だと思います。セリフがなくて、食べ物が生産される現場を撮っているだけなんですよね。いかに大量生産されているかの絵を見せていくだけで、普通はやらないでしょって言われる映画なんですよね。(14)『アクト・オブ・キリング』だって、普通はやらないような映画なんですよ。インドネシアの60年代の虐殺がテーマで、すごく暗い気持ちになるんです。でも、それが結果的に大ヒットになっている。だから、僕も多様性はいろいろあるとは思います。

(浅井)
取材相手が、映画館以外にもビジネスをやっていて、映画館に必死で情熱をかけなくても生計は立てられるから、映画館に対するビジネスの意欲が失せただけというケースが多いのでは。映画館をやめる人が「自分はもうミニシアターには興味がなくなった」と言ってくれればそれだけで済むのに、「ミニシアター業界は今大変だ」みたいな物言いにするから、ずれていくと思います。で、「ミニシアター業界全体が衰退してる」とメディアは書いてしまう。

―先ほどのアンケートでは、ミニシアターを知っている人のうち、ミニシアターに行ったことがない人が38パーセントいて、その理由に「(ミニシアターに)入りづらいから」を選択した人が一定数います。「ミニシアターの敷居の高さ」を改善するためにご両館が行っていることはありますか。


(浅井)
昔メールで「ミニシアターに行きたいんですけど流儀を教えてください」って送られてきた。そんなハードル高いのかと思いましたね。

(山下)
イメージフォーラムは2000円の年会費をお支払いいただくと一年間1100円でどの映画もご覧になれる会員制度をやっていて、結構お得なシステムだと思うので会員制度のことを映画館の宣伝でやたら入れているんですけど、そのせいか、「この映画館は会員制なのか」とよく質問されます。「宣伝の仕方がおかしいのか、それともやっぱりイメージフォーラムがすごくクローズな感じがするのかな」とは時々思います。確かに、うちでしかやってない映画を観るお客さんって、シネコンで流れている映画を見るお客さんとだいぶ違うと思うんですよ。だから、シネコンだけしか行かないお客さんには、ミニシアターに対して「ああ、なんか違うことやっているな」という印象はあるかもしれないですね。

(浅井)
うちは雑居ビルだから、確かにそういうところを意識していて、最近だと他のミニシアターでヒットした(15)『チョコレートドーナツ』をやってみたり、年末年始には『グランド・ブタペスト・ホテル』とか(16)『her』とか知名度のある作品を持ってきたりしている。「あ、知ってる」とお客さんが言える映画をやって、それをきっかけに今後他の作品も見に来てくれないかなと思っています。

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(12)新橋文化劇場。JR新橋駅の高架下に位置していたが、その高架下の耐震補強工事に伴い2014年8月に閉館した。
(13)ドイツのドキュメンタリー映画。食べ物の生産現場とそこで働く人々を映す。
(14)インドネシアで起こった大虐殺に関わった者たちにその時の状況を再現させたドキュメンタリー映画。
(15)トラヴィス・ファイン監督作品。ゲイの男性が育児放棄された障害児を育てるというストーリー。単館系の作品としては異例のヒットとなった。
(16)スパイク・ジョーンズ監督作品。パソコンのOSに恋をした男の物語。