2 SNSのチカラ
―アップリンクとイメージフォーラムはツイッターのフォロワーが非常に多く、他のミニシアターと比較してもSNSでの広報活動に力を入れている印象があります。SNSの登場は、ミニシアターの来客層や来客数にどのように影響しているのでしょうか。(浅井)
アップリンクはここ1年お客さんが増えていて、データ的に見ても売り上げが去年の120%ぐらいになっている。それは、2012年頃から、iPhone5・5sが大学生にも普及し、SNSでの情報のやり取りが一気に流行ったおかげだと僕は思っている。
SNSの文化は、悪いものを批判するというネガティブな方向よりも、良いものを褒めるようなポジティブな方向に働いている。小さい規模の映画であまり宣伝をやっていなかったり、ウチみたいな小さな映画館でやっていても、面白ければお客さんがそれをtwitterでツイートやリツイートしたり、Facebookでも書いてくれて、それがシェアされることがこの一年で大幅に増えてきた。それによって、アップリンクの場所は発見されただろうし、作品も発見されたと思う。ウチでは、宣伝はインターネットがメインだと考えていて、他のミニシアターとかと比べてツイート数が多いと思う。26000人ほどのフォロワーに、時にはうざいと言われるくらいにツイートしている。
(山下)
アップリンクの他に、浅井さんは「webDICE」という、レビューも含め映像について発信するメディアをやられていますよね。「webDICE」もそういう方針でやっているんですか?
(浅井)
「webDICE」にもアップリンクとは別にアカウントがあるし、作品ごとにもアカウントがあるから、Facebookも入れると総フォロワーというか、アップリンクの発信でリリーチする人数は10万人を越えると思う。アップリンクで配給する作品は「webDICE」とアップリンク、それからTwitter,Facebook、Instagramを一応全部屈指して宣伝をすることを必須にしています。一斉に配信して、バーッとネットの世界にバズを起こせればなあと思っています。それは日々一生懸命やっているところ。
(山下)
今までの広報は、メディア媒体を周って、作品について記事にしてもらうといった、パブリシティーの活動をしていたんですけど、今は宣伝部の人がずっとTwitterやFacebookを使って、自分たちで作品の情報を発信している傾向があるのは感じるね。車内広告なり予告編をテレビで見せるだけじゃなくて、自分たちでできる小さい規模の宣伝もある。そうなると、SNSの影響力は、特に動員数を見ているとやっぱり大きいと思います。
(浅井)
結局、ヒットする作品は、行きつくところは心に届くいい映画。だから、原点に戻ってきていい映画を配給すればちゃんと伝わればそこから広がる。昔でいう口コミが、TwitterやFacebookといったSNSでより大規模になり、宣伝でちょっと大きく見せたりごまかしたりするのが利かなくなった。だから、配給会社として映画を買い付ける時が一番重要になる。寿司屋と同じですね、いい素材のネタであれば、そんなに手をかけて料理する必要がない。
(山下)
そうですね。「すごいものを上映しているぞ」とはったりで言っても、評判はバーッと広まっちゃう。昔は結構そうやって騙されて皆観にいきましたけども(笑)。
(浅井)
今は実際に観た人の感想がすぐにぱっと出てしまうから。
(山下)
ただ、いい映画が伝わりやすいという一方で、140字に載せられない映画はすごく難しい。いい映画かどうかというのは置いておいて、うちで(10)ロベール・ブレッソンの『スリ』と『抵抗』をやったんですけども、これらは「映画好きと言ったらとりあえず観ておかなくてはいけないだろう」的な作品でしたが、何年も日本で上映されていなかったんです。だから、「これはお客さんが入るぞ」と思って満を持して上映しました。そうしたら、実際にはこちらが期待していたほどお客さんは来なくて、Twitter上とかFacebook上とかの反応も少なかった。
で、その直後に(11)ヘルツォークの特集をやったんですよ。ヘルツォークはしゃべることが結構あって、「あんな狂った人は船に山を越えさせるんだ」とか。
(浅井)
SNSで書くネタがあったということですね。
(山下)
そう、ヘルツォークには書くネタがあった。でもさっき言ったブレッソンの映画は何も言うことがないんですよね。「あ、凄い。」みたいなことしかない。こちらとしても、言葉にして載せる努力はするんだけど、ブレッソンのことを褒めれば褒めるほど小難しくなって、自分たちから遠い映画のようになってしまう。実際、他の人が書いた、作品を褒めているツイートって、すごく小難しいんですよ。漢字が多いとか。
(浅井)
それはちょっと行きたくなくなるなあ……
(山下)
そう。逆に、ヘルツォークみたいに「こんな狂った映画がある」とか「こんなとんでもない映画がある」みたいな口コミがバーッと広がって、「なんか一部で盛り上がっているなあ」って感じてヘルツォークを知らない人が実際に観に来るみたいな場合もあります。だから、そういう意味では、「プログラミングもSNSの影響を受けているのかな」とは思いますね。
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(10)フランスの映画監督、脚本家。
(11)ヴェルナー・ヘルツォーク。ドイツの映画監督、脚本家。『フィツカラルド』で船に山を登らせた。