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【映画企画】是枝裕和監督取材



5「映画」という豊かな川の一滴になる



――監督の作品は、日本だけではなく海外での評価が非常に高いと思います。その理由はどこにあるとご自身ではお考えでしょうか。


なんでだろうね…… 海外の映画祭で日本映画を観に来る人たちは、小津や黒澤・溝口健二(14)から大島渚(15)や今村昌平(16)といった日本映画史の流れを汲んだ上で今の作品も観ている人が日本よりも多い。その流れの上で僕の映画も観てくれているのだと思う。その恩恵でビジネスとしても成功するし、海外映画祭というサークルの中で監督として尊重されるから、すごく気持ちがいい。
でも、そこにとどまってはダメ。映画祭で世界各国の日本映画好きに公開するだけではなく、今度はその国の街の映画館で一般に向けて公開する方法まで考えなければいけない。それがこの20年で継続的に成功できているのは、日本で言うとたけしさんと黒沢清さん(17)くらいじゃないかな。それには配給会社の人との関係も大事だし、僕は「そこまで監督がするのか」というようなビジネス的なところも含めてやってきた。それで評価されている面も
あるとは思います。


――是枝監督はデビュー作の『幻の光』からずっと映画祭と関わっていらっしゃいますが、監督にとっての映画祭のよさはどのようなところでしょうか。


世界から映画のスターが集まってきて華やかだから楽しいっていうミーハーな側面はもちろんある。ただそれとは別に、お祭りだからこその良さがある。たとえばオリンピックも、メダル獲得競技会ではなくて本来はお祭りであるわけじゃん。「こんなにすごい奴がいるのか」とかいった驚きも含めて、スポーツという大きな文化の一部に自分が参加をしているという実感っていうんですかね、きっとそれが素敵なんだよね。

映画祭、特にカンヌはそういう場所だね。映画という100年続いてきた豊かな川の流れがあって、自分もその一滴であるという自覚を持てる。自分がその川の一部であり、豊かな川を形成している以上、「また良いものをつくっていこう」という覚悟が持てる。それはとても大切なことで、何かに帰属して生きるのであれば、ナショナリズムではなくもっと大きなものの一部であるという感覚を持ちたいと思っている。
僕はなんの宗教もないし日本への帰属意識もないので、そういう感覚を持ったのは初めてだった。映画祭に参加してそういう気持ちになったし、映画祭に集まる他の映画人たちに対する尊敬の念が湧いた。2年に一度ぐらいそういう経験をしていくと、「この場に対して恥ずかしくないものを撮ろう」と思うんだよね。


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(14) 日本の映画監督(1898-1956)。黒澤・小津と共に日本三大巨匠の一人とされている。ジャン・リュック=ゴダールに大きな影響を及ぼしたことは有名。代表作に、『雨月物語』『山椒大夫』。
(15) 日本の映画監督(1932-2013)。社会性の高い作品を特徴としており、海外での評価も非常に高い。代表作に、『愛のコリーダ』『戦場のメリークリスマス』。
(16) 日本の映画監督(1910-1998)。日本人として唯一の、世界でも7人しかいない、カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)複数回受賞者。代表作に『楢山節考』『うなぎ』。
(17) 日本の映画監督(1955-)。1997年、『CURE』が東京国際映画祭に出品されたことを皮切りに、海外での評価を高めている。代表作に『トウキョウソナタ』。