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【映画企画】是枝裕和監督取材



2映画が街中に染み出した時代


――現在の映画製作では、クリエティビティよりもマーケティングが優先されているように感じます。このような状況について、是枝監督はどのようにお考えですか。


そうだねえ……。 難しい問題だね。映画作品の多様性がなくなっているから、「映画界が産業として良い状態かどうか」を考えると、良くないと思います。でも、マーケットが優先されているのは世界的にいろんな分野で起きていることであって、映画だけの世界ではないよね。

撮影所体制で映画が作られ、対抗する娯楽産業がなかった時代と比べると、世界的に見ても公開作品の質は落ちているし数も減っていると思います。ただ、撮影所体制が壊れなかったら僕みたいな人間は映画を撮れなかっただろうから、「撮影所が壊れたことによって映画を撮れている人間が、壊れたことを批判するのってどうなんだろうな」という気もすごくする。
僕が撮っている映画は、1950年代や60年代に撮影所の中にある作り物のオープンセットで銀幕のスターを登場させて撮ったものとは確実に違う。セットという虚構の世界の中で映画が作られなくなって、撮影場所が街中に出始めたという現実がある。そうなると、実際にある風景や建物の中に高倉健(2)が似合うかと言ったら、似合わなくなってくる。そこで、実在する街中に置いて似合う役者や芝居を根本的に考え直していく必要がある。それは映画製作の進歩であると同時に崩壊の始まりでもあって、僕自身もそういう映画にしかリアリティを感じなくなっている。そういう状況下でいま僕は映画を作っていて、「その現実を踏まえつつ何ができるか」を考えています。


――そのような状況下で「分福(3)」を作られたのはどのようなお考えからでしょうか。


分福は、作り手が何人か集まって刺激し合いながら一つの場所を共有していくのが映画作りの理想かなと思いつくりました。そばに尊敬できる作り手がいて、互いに刺激しあうのは大事なことだと思う。映画監督は孤独な仕事で、放っておくと一人になっちゃうからね。そうなるとやっぱりすぐ枯れちゃうんだよね。いつまで続くかわかりませんけど、こういう場所があった方がいいんじゃないかな。


――今後は、どのような展望があるんでしょうか。


僕自身が動かしているもので今撮り終わったものが2本、で、来年もう一本撮れたらいいなという企画があります。西川(美和監督)も新作の準備を始めています。リクルーティングもするよ。2年前に新人を募集して2人採用しました。そして今年もまた募集をして、今のところ120?130人から履歴書が届いています。そこからピックアップして、スタッフとして入れていきながら監督をさせていくっていう目標はあります。


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(2)日本の俳優・歌手。主な代表作に、『鉄道員』、『八甲田山』、『南極物語』など。
(3) 是枝監督・西川美和監督らにより2014年4月に設立された株式会社。映像作品の企画・製作・プロデュースを行う。分福より、是枝監督の作品『海街diary』が2015年公開される予定である。