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【映画企画】是枝裕和監督取材



4文化行政ではない「クールジャパン」



――最近は「クールジャパン」(12)で、日本のアニメなどを海外に売り出していますよね。そこで映画が売り出されないところが、この国の映画界の状態を表しているように思います。日本という国が、アート映画に興味がないということなのでしょうか。


「クールジャパン」なんて結局ナショナリズムでしかない。その目的は外貨獲得であって決して文化行政ではないんだよ。そもそも名前自体が「クールジャパン」だからね。「文化」ではなくて「日本(ジャパン)」が先にあるわけでしょ。本来、文化行政は国よりも文化が先に出てくる発想でないと駄目だよね。「クールジャパン」には文化の発展に国がどのぐらい寄与できるかという発想がないからね。映画だったら「映画作品の多様性を確保して成熟させるのに、日本がどう寄与できるのか」という風に考えなければいけない。

たとえば現在のオリンピックに対する国の姿勢もそうだよね。本来は、「スポーツという文化をどう成熟させていくか」を考えた上にオリンピックがあって、そこで日本は何ができるかを考えるべきだよね。しかし、今日本は「どれだけメダルを多く取れるか」という風にしかスポーツを考えられていない。それは、文化をわかっていないということで、田舎っぺの発想なんだよ。その点でフランスは違うと思います。映画は自分たちが産んだ文化だと思っているし、映画祭ひとつ見ても成り立ちから日本とは全く違う。そこに学ぶことはたくさんあるんだと思うけど、なかなか日本はそういう視点には立たない。


――日本もフランスのように、行政がお金を出して文化を守る必要があるということですか。


僕はそう思います。特にアートハウスは、行政が助成をしていかないと全部潰れてシネコン(13)になってしまう。それを防ぐためには、産業として利益を上げるのは諦めて、図書館のように各地域にアートハウスをつくるしかない。アートハウスではリテラシー教育もできるし、アーカイブがあるから上映会も出来る。シネコンで新作を観るのとは明らかに違う形にして、そこに助成をしていくという形にしないとアートハウスは生き残らないと思います。そうやってきちんと行政が助成すべきだと思っているけれども、今のこの国の発想だと多分無理だなあとも思っています。





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(12) 衣・食・住やコンテンツ(ゲーム・アニメ・ドラマ・音楽など)などを含めた日本の文化やライフスタイルのこと。政策としては、それらを海外に発信することで海外需要を獲得し、日本の経済成長につなげるねらいがある。
(13) シネマ・コンプレックスの略称。複数のスクリーンを有し、複数の作品を同時に上映できる映画館のこと。大手映画配給会社(東宝・東映・松竹など)が運営している場合が多い。1990年以降郊外を中心に展開し、現在は都市部にも数多く存在している。