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Interviews

【観劇企画取材】福井健策先生(弁護士)


3 劇団・劇場・観客

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【劇団と劇場】

――今までのお話とは全く違う質問になりますが、現在の日本の演劇は徐々に劇団中心から劇場中心の制作体制へと移行している印象があるのですが、そういった状況についてはどのように思われますか。

 

プロデュース型の公演が花盛りなのは事実です。これは劇場だけでなく、プロダクションが中心のものも増えています。例えば「シスカンパニー」という、野村萬斎・堤真一・渡辺えりといった方々が加わっていて、元・夢の遊眠社の役者さんが大勢所属しているプロダクションがある。ここは舞台公演を多くやって、いま最もお客を呼ぶ公演主宰者の一つですね。

確かに、劇場などが中心になって、一回ごとに違うメンバーを集めて座組を構成し、公演を打って解散する、「プロデュース公演」という手法は完全に定着しました。やはり、世田谷パブリックシアターと新国立劇場の存在が大きいと思います。この手法の利点は、毎回最適の演目、最適のキャスティング・スタッフィングが行える、ということですね。それによって、いわゆる魅力的な座組で大勢のお客を集めることが出来る。そのため、演劇というものが興行的に大きな規模になりやすい、つまりメジャー化しやすくなりますし、もちろん作品が面白くなる可能性も上がります。私もこの手法を基本的には支持しています。

ここにおいて中心的な役割を期待されているのは、プロデューサーという、企画制作者側です。ただ日本の場合、プロデューサーはどうしても裏方になりがちなので、演出家が前面に出てくることが多いですよね。

一方、劇団は「カンパニー制」です。これは当然、あるひとつの理念の下に集団で継続的な活動をしていく空気を共有するのに適しています。従って、ある作風・理念・表現上の目標を集団で追求していくことができる。すると、同じ劇団の作品を追いかけていれば大体同じようなカルチャーの作品に出会うことが出来て、リピーターもつきやすいですよね。昔で言えば、もちろん状況劇場・唐十郎さんとかね、野田秀樹さん・夢の遊眠社などが代表格でしたけれど、現在人気があるのは、松尾スズキさん率いる大人計画ですね。宮藤官九郎や阿部サダヲはここの出身です。TVドラマ『あまちゃん』で、「なんかこの人面白いな」という人がいれば、一定の確率で大人計画の役者ですね。「どこでこんな役者が育つのだろう?」というような変わった役者を輩出するのが、劇団制の良いところです。

劇団の欠点は、代わり映えがしなくなることです。劇団の中でヒエラルキーが形成されて、役割が固定する。一つの運動論を追求していると言えば聞こえは良いけれども、硬直化しやすい傾向がありますね。また、リピーターがつく一方で、それ以外のお客は入りにくくなる。一定の時点で、新しい展開が望みにくい安定期に入ってしまうことがあります。

一方、プロデュース公演の欠点は、売れっ子の奪い合いとなってそれはそれで顔ぶれが似てきてしまうことです。これもある意味硬直化と言えるかもしれません。私自身は両方に魅力を感じるので、それぞれの利点を合わせた最適な方法が、硬直化することなく採られることが出来ればいいと思っています。

 

【演劇と教育】

――演劇は、観客が最初に触れた作品がその人に決定的な影響を与える面が強いと思いますが、その中で演劇を広めていくには何が必要でしょうか。

 

仰る通り、演劇はファーストコンタクトが重要となります。すると、中学や高校で巡回演劇を観た時の当たり外れの影響が大きくて、そのために二度と演劇を観に行かなくなる人が日本には多い。ファーストコンタクトを良くするためには、全体のレベルを底上げして良い作品に触れる機会を増やすことももちろんですが、せめて小・中・高で芝居を見せる時に、最高水準のものを見せてあげることが重要です。そのためには先生の見る目や知識も向上させなければならないですし、適切な助言が出来るアドバイザーも必要ですね。加えて、良い作品を全国津々浦々に届けるためにはお金がかかりますから、公的な助成・サポートも必要になります。

日本人は対外的なコミュニケーションが上手でないことがしばしばで、そのために躓くケースが多い。社会人が海外に留学した場合に、筆記試験では優秀なのに、教室での議論はまるで不得手ということはよくある。口だけの人になっては意味がありませんが、自分を表現できることは重要です。そのための教育が今の日本にはありませんが、演劇教育はそういう意味でも役に立ちます。芝居に触れるための手掛かりを学校教育が提供してもいいのではないでしょうか。