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Interviews

【観劇企画取材】福井健策先生(弁護士)


2 芸術・著作権・ビジネスモデル

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【著作権とアーカイブ化のコスト】
――ライブイベントをアーカイブ化した場合、仰ったように、どうしても一回性の上演そのものとは異なったものにならざるを得ないと思うのですが、そのようにアーカイブが翻案に類似してくることと、著作権という権利とはどういう関係にあるのでしょうか。

 

その二つは全く別の問題です。たとえ完全な再現であろうと、著作権の問題は関わってきます。保存・公開されようとしている作品は著作物であり、人の著作権というものが付着しています。例えば舞台であれば、戯曲・舞台美術・音楽・ダンスの振付、これらの全てが著作物ということになります。厳密に言えば隣接権という複雑な要素もあるのですが、それは措くとしても、一つの舞台に複数の著作物がある。舞台上のそれぞれの要素に別の著作者、別の著作権が生まれています。この著作権は、大まかに言えばコピー・翻案・再演のどれをとっても関係してくることになります。

例えば、著作権の中には、「私の作品を勝手にコピーしないでください」と言える権利が含まれています。それから「インターネットで公開しないでください」と言える権利も含まれています。それぞれ、複製権・公衆送信権と言います。つまり、劇作家がどこかにいれば、「私の戯曲を再現した舞台を勝手に録画しないでください」と言えることになります。さらに「録画したものをコピーしないでください」とも、「無断で上映しないでください」とも言えます。著作権というのは強力な権利で、理由を問わず言うことが出来る上に、存続する期間が長い。著作者の生存中はずっと、死後も遺族が50年間は主張することが出来ます。

すると、その間は許可がなければ基本的に作品をアーカイブ化することは出来ません。以上のことは、戯曲だけでなく、舞台美術・音楽・振付の全てに当てはまります。そして重要なのが、「著作者の全員がアーカイブ化を拒否する権利を持っている」ということです。例えばミュージカルであれば、振付家一人が拒否すれば、他の著作者全員が許可していても、アーカイブ化は出来ないということになります。多数決ではなく、一人ひとりに拒絶権がある。その上、著作者と連絡がつかない場合でも、アーカイブ化は出来ません。

前に申し上げた通り、作品をアーカイブ化したいという需要は幾らでもあるのですが、問題になるのはその際の著作権処理のコストです。沢山の権利者がいて、その中には簡単に連絡のつかない方も大勢いる。一つの人気作品をDVDに復刻するならともかく、何千何万点というアーカイブすべき作品の全てについて、一つ一つ著作者の許可を得るために手間をかけることは不可能です。ですから、結局多くの作品については、権利処理にかかるコストが予算を超えてしまっているとして、アーカイブ化が断念されることになります。